定年延長で大量発生?…職場によくいる「残念なシニア」3類型
少子高齢化により労働力不足が深刻化の一途を辿る今、「シニア活用」こそが人材不足を解消する最後の砦です。とはいえ、多くの企業が取り組む「定年退職年齢の見直し」や「定年退職後の再雇用」といった小手先ばかりの「定年延長」では、かえって企業経営に重大な影響をおよぼしかねません。安易な「定年延長」がどのような状況を生み出すのか、日本全国で大量発生している「残念なシニア」に焦点を当てて解説。※本連載は、石黒太郎氏の著書『失敗しない定年延長』(光文社)より一部を抜粋・再編集したものです。
「定年延長=定年退職年齢の見直し」という大誤解
日本企業の多くは、旧態依然とした時代遅れの人事施策・制度を継続しており、経営を取り巻く環境変化に順応した人材マネジメントへとアップデートすることができていません。 日本には昭和以前に創業した企業が100万社以上あると言われています。これらの企業の多くに共通する特徴として、社員の年齢構成に大きな歪み(ある年代の社員は相対的に多数在籍しているのに対し、別の年代の社員は少ない状況)が生じていることがあげられます。この歪みは、平成時代の30年間に何度もあった好況・不況の波に対応するため、日本企業各社が毎年の新卒採用数を増減させた結果であり、キャリア採用枠の少々の拡充などでは是正できないような組織構造にしてしまったのです。 そういった状況の中、日本社会の大きな変容を背景に、本連載のテーマである「定年延長」が企業経営の趨勢を決めかねない重要な課題の一つになることは間違いありません。その理由として以下の4つがあげられます。 理由1. 人材不足の解消にはシニアの活用が不可欠 日本全体の少子化進展により、生産年齢人口は急激に減少していきます。労働力不足を人手の確保によって解消する手段としては、女性活躍の促進、外国人材の受け入れなどが当然考えられますが、日本企業の強みである高度な技術・技能の活用・伝承を併せて考えると、経験豊かなシニアの活用が有力な手段になります。 理由2. モチベーションを失ったシニアが急増 2013年施行の改正高齢者雇用安定法による65歳までの雇用義務化に対応するため、日本企業各社は定年後再雇用の仕組みを急ぎ導入しました。戦後の経済成長を背景に続いてきた旧来の日本型雇用システムでは、社員の報酬水準が50歳代でピークを迎える傾向にあります。この水準を是正するため、多くの企業が再雇用者の報酬を定年直前の額から一方的に大きく縮減する運用を行っているのが実態です。 その結果、多くのシニアがやる気を失ってしまい、日本企業の現場では扱いづらい「残念なシニア」が急増しています(残念なシニアについて、詳しくは事項で紹介します)。今のシニアの多くは、本来期待される高度な技術・技能の伝承どころか、周囲の同僚に悪影響を与える存在になってしまっている状況も見受けられます。 理由3. 人生100年時代を見据えた更なる高齢者雇用が国策化の見込み 年金財政の安定化を図りたい日本政府は、近い将来、企業における定年延長の義務化に踏み切る可能性も考えられます。現在、前述1の人材不足が喫緊の経営課題にはなっていない企業でも、近いうちに定年延長への対応を余儀なくされ、年齢に関わりなく働き続けられる雇用・就業環境の整備を迫られることになるでしょう。前述2の通り、シニアのモチベーションが低下していても、国策としてシニアの雇用を拡充しなければならない、という経営者にとっては頭の痛い状況が想定されます。 ここまでの3つの理由だけでも、定年延長を重要な経営課題として位置付けるに十分ですが、4つ目の理由がさらに企業に追い打ちをかけます。 理由4. バブル入社組の60歳到達が目前 1990年前後に新卒入社した大量採用世代、いわゆるバブル世代が50歳代となり、残り数年で彼/彼女らは60歳を迎えます。創業が昭和以前の日本企業の多くでは、この大量採用世代が社員構成全体の20%前後ないしはそれ以上を占めており、最多社員層になっています。この世代が「残念なシニア」として会社に居座ってしまうと、日本企業の組織風土・労働生産性ひいては事業品質が著しく劣化し、競争力が大きく毀損してしまう可能性があります。 これら4つの理由を勘案すると、定年延長を単なる定年退職年齢の見直しと捉え、小手先の人事制度見直しだけで乗り切ろうとすると、企業経営に重大な悪影響を与えかねず、最悪のケースでは経営が傾く要因にもなり得ると考えられます。そうならないためにも、日本企業の人事部門は、定年延長を重要な経営課題の一つとして明確に位置付け、経営トップを巻き込んだ検討を早急に進める必要があります。