<追跡>深刻なタクシー不足 業界団体反対もライドシェアの解禁は進むか【WBS】
インバウンド客の急増などもあり今、各地でタクシー待ちの長い行列ができています。この状況に、菅前総理がウーバーなどライドシェアの解禁に言及しました。これまで事実上の白タクだと日本では解禁が見送られてきましたが、タクシー不足の深刻さから今回は解禁となるのでしょうか。 取材班が向かったのは、福岡市博多区。平日の夕方、タクシーを待つ人は10人ほどいますが、タクシープールは空っぽです。市民からは「一番待ったのは30分くらい。もう乗りたくないかなって」「地獄。午前中はほとんど電話に出ない。病院など時間が決まった時は2~3日前から予約を入れる」と声が上がります。 タクシー会社の配車センターに行ってみると、10分間でかかってきた配車依頼15件に対し、配車できたのはわずか1件でした。 タクシー不足の背景には何があるのか。駐車場に案内してもらうと、そこには使われていない大量のタクシーがありました。乗務員が足りず、180台あるうちの半分は休みだといいます。
タクシー業界では高齢のドライバーがコロナ禍で大量に退職。ドライバーの数はコロナ前に比べて2割も減りました。ドライバーの不足により、一人ひとりへの負担は増しています。 あるタクシードライバーの勤務に密着させてもらいました。 取材を始め、市内中心部に入るとすぐに1人目の乗客が。目的地で乗客を降ろすと、わずか3分後にはアプリで配車が決まります。結局夕方の時間帯は2時間半で7人を乗せ、空車時間はわずか8分。インバウンド回復などで急速に高まる需要に供給が追いつかない状況です。 こうした現状への対策として、菅前総理は「これだけ人手不足になってきたら、ライドシェア導入に向けた議論も必要だ」と発言しました。
アメリカのウーバーを筆頭に、今や世界中に広がったライドシェア。一般のドライバーが自家用車を使って有償で乗客を送迎するサービスです。タクシー不足に悩む自治体などを中心に解禁を求める声が強まりつつあります。 自民党本部でもタクシー議連の緊急総会が開かれました。会合には、業界団体トップで、日本交通の川鍋一朗会長の姿もありました。 タクシー業界はこれまでライドシェアに強く反対。安全な客の輸送には、タクシー業界が行ってきたようなドライバーの育成や飲酒運転の対策、車両の整備などが不可欠だと主張します。政府与党も、これまでこうした声に応え、ライドシェアの解禁を見送ってきました。 ライドシェアを求める声の高まりについて、川鍋会長を直撃すると「必ずしも今、タクシー業界が何もしていなくて、ライドシェアを解禁すれば全部解決するというのは、ちょっと短絡的」と否定的なコメント。川鍋会長はタクシーが運転できる資格取得の条件を簡素化して、タクシードライバー自体を増やすべきだと主張します。 「よく一般の方に、タクシー業界は規制で守られている、既得権益だと言われるが、今の時代に合わせた形で規制を少しアップデートしていく。規制緩和していくというのが、まずタクシー業界がやるべきこと」(川鍋会長) 日本でのライドシェアの解禁はやはり進まないのでしょうか。 自民党タクシー・ハイヤー議連の渡辺博道会長は「そういう話が出てくる状況は、タクシー運転手の不足がある。ライドシェアには基本的に反対という流れは変わっていない」と話し、自民党タクシー・ハイヤー議連の盛山正仁幹事長も「ライドシェアは事故そのほかが起こった時に誰が補償するのか。普通のドライバーとその乗客との相対の責任関係になるので、それはまずい」と否定的な見解を示します。 一方、自民党内には菅氏のほかに河野デジタル大臣や小泉進次郎氏なども解禁に前向きな姿勢を示していますが、党内の方向性は定まっていません。 日本でのライドシェアの解禁に期待し、2015年にライドシェアサービス「CREW」を立ち上げたのがAzitの吉兼周優代表です。解禁の動きが鈍く、サービスは無期限休止としています。 「ライドシェアを一概に推し進めればいい、リスクがない、メリットしかないとは考えてはいない。その議論さえ行われていなかった現状なので、国民がタクシー不足の課題を感じていて賛成・反対の人も含めて、何かしらの議論が深まっていくこと自体は日本という国にとってポジティブなもの」(吉兼代表) 日本ではライドシェア解禁の議論の行方は見通せませんが、アメリカや中国では、無人タクシーの利用も始まっています。事業者は、規制改革の議論にはスピードも欠かせないと話していました。 ※ワールドビジネスサテライト