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「日々の食を通じて当たり前を疑う」。映画批評家・三浦哲哉さんが選ぶ、今読みたい本。

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クロワッサンオンライン

撮影・黒川ひろみ(本)文・澁川祐子

思いがけない事態に、看過してきた問題が明らかになりつつある今、思索のヒントは書物の中に。読書から思考の軌跡を辿ります。

三浦哲哉(みうら・てつや)さん 映画批評家。青山学院大学准教授。著書に『サスペンス映画史』のほか、料理本や料理エッセイを考察した『食べたくなる本』(共にみすず書房)がある。

コロナを機に、当たり前の「食べる」という営みを、多くの人が再考せざるを得ない状況に陥っている。この状況を、ふだん映画批評をしている私は、ある種の「サスペンス」状態だととらえている。サスペンスとは、当たり前の日常を揺さぶり、その自明性を疑わせるものだ。宙ぶらりんの状態は当然、人を不安にさせる。だが、それはじつは当たり前だと思っていた足元を見つめ直す契機にもなる。そこで、あらためて「おいしい」の根拠を考えさせる本を、順を追って紹介したい。

まず手に取ってほしいのは、日本における近年の食の流行を網羅的に紹介した『ファッションフード、あります。』だ。本書が稀有なのは、歴史をたどる中で、いつのまにか自分の人生を振り返るようになることだ。かつて憧れを抱いた食べものから、当時の懐かしさや恥ずかしさといった、いろんな感情が喚起されていく。そうして実感をもって読み進めるうち、「おいしい」や「正しい」は、時代によって二転三転していることがわかってくる。 食の情報に接していると、どうしても「これを知らないと食通とは言えない」 「これを食べるのが健康的な食だ」といったプレッシャーを受け取り続けてしまう。だが本書は、食を楽しむことが、じつはとても自由な営みだということに気づかせてくれる。

自分にとっての 「おいしい」を構築する。

次に読んでほしいのは『まごころの人』だ。著者の辰巳浜子は料理研究家の草分けで、いわゆる良妻賢母像の頂点とも言うべき人物。その辰巳が、戦後の混乱をどう生き抜いたかという自伝と、同じく料理研究家の娘の芳子による評伝がまとめられている。 本書を読むと、辰巳は自分の頭で突き詰めて考え、荒唐無稽なことでも思いついたら実行せずにはいられない人物だったことがわかる。とても真似はできないが、自分で実験し、独自のスタイルを構築する姿から「料理の喜びとは何か」が伝わってくる。また、土を起こし、畑を作るところからいかに日々の食卓を立て直していったかというサバイバルの記録は、日常が崩れた今読むと、いっそう心に響く。

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