<近江式エンジョイベースボール>24センバツ/1 行動変え最強チームに 日本一へ三つの心構え /滋賀
3月18日に開幕する第96回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)に2年ぶり7回目の出場を決めた近江。しかし昨秋の近畿大会で8強入りしたチームの夢舞台への道のりは決して簡単なものではなかった。彼らの負けられない戦いの軌跡をたどった。【菊池真由】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち センバツを目指す新チームの結成直後、近江の多賀章仁監督は新チームのモットーとして心の中で温めていた「エンジョイベースボール」を掲げた。「野球に真剣に取り組み、心から楽しんでこそ、一人一人が上達してより強いチームになる」という意味が込められている。初戦敗退で終わった直前の夏の甲子園で近江野球部に何が足りなかったのか――。多賀監督は自問する中で「エンジョイベースボール」という言葉に向き合い、このチームでその言葉の本質に迫ろうと考えた。 近江はこの年のセンバツ出場は逃したものの、5大会連続で出場した夏の甲子園は2021、22年と2年続けて4強に進んでおり、上位進出が期待されていた。 だが大垣日大(岐阜)との初戦は序盤から相手ペースで進み、近江は滋賀大会を勝ち上がった継投で反撃の機会を待つ。六回に本塁打で2点を返し、「近江ブルー」で染まったアルプススタンドからは逆転を信じて歓声が湧き起こったが、七回に失策が絡み、突き放されて完敗。選手らは「出場できたことに満足してしまった。甲子園は甘くはなかった」とうなだれ、悔し涙をにじませながらグラウンドを後にした。 「出ることに満足して滋賀県のために、周りで応援してくれる人のために本気で日本一を取りにいこうという気持ちが選手らにあまりなかったのではないか」。甲子園での敗戦の翌日、新チームが始動すると多賀監督は選手たちが目指すべき方向性を考え始めた。 この夏、107年ぶりに甲子園の頂点に駆け上がったのは慶応(神奈川)だった。選手たちの自主性を重んじ、より高いレベルで野球を楽しむ「エンジョイベースボール」がチームの伝統で大きな注目を集め、多賀監督も「甲子園で試合に出る、三振を取る、本塁打を打つといった自分の活躍だけを考えているだけでチームがまとまっていなければ日本一は取れない」と実感した。そこで「選手らの気持ちを引き締め直し、精神面の自立を促すことで、日本一を取りたいとチームの皆に思ってもらおう。そのためには近江式の『エンジョイベースボール』を確立しよう」と考えた。 そして選手たちに三つの行動を求めた。(1)ベストを尽くすこと(2)仲間への気配りを忘れないこと(3)自ら創意工夫して自発的に努力すること。これらができてこそ一流のチームだと説いた。選手らに「昨年の自分を超え、今日こそ日本一の練習をするという思いを胸に挑戦し続けてほしい」と語りかけた。 エンジョイベースボールを合言葉に選手たちの挑戦が始まった。