薩摩錫器の伝統技術を次世代に。「薩摩錫器工芸館」の今までとこれから
錫器に触れる体験を通して、伝統を次世代に
ー岩切さんが考える、業界全体の課題は何かありますか。 戦前は鹿児島県に錫器メーカーが30社ほどありましたが、今は2社のみです。これほど減ってしまった理由には、戦争の空襲で作業場が焼けてなくなってしまったことも関係しますが、原料である「錫インゴット」の価格高騰も挙げられます。私が家業を継いだ頃と比べると、今は当時の5倍ぐらいの価格になっています。 原料はもう国内で採れないので、輸入しなければなりません。ただ、近年は原料の金額が変わってしまったり、欲しくても輸入できなかったりすることもあります。 原料がないと仕事にならないので、原料の確保はとても重要なんです。 ー錫は、鹿児島ではもう取れないんですね。 厳密に言うと、錫はあるものの、今は人件費などの関係で取るのが難しいようです。弊社が創業した頃は、鹿児島でも取れていました。 昔は鹿児島でよく取れていたので、伝統工芸品の産地になるほど発展してきたんです。 ーどこから仕入れるかによって原料の品質も変わるかと思いますが、出来上がる製品にも違いは生じますか? メーカーによって、どうしても原料の品質は変わります。以前、安い原料を使ってテストしてみたのですが、出来上がったものを見ると、やはり全然違いました。 いい色が出なかったり、切削時の感覚が違ったり、腐食しやすかったり。製造の途中で分かることもありますが、完成品になるまでまったく違いが分からないこともありました。 きちんとした原料を選ぶかどうかで完成品のクオリティが変わるので、お客様に対しての信用問題にもつながります。
ー原料の質は、見て分かるものなのでしょうか。 見たらある程度は分かります。弊社では輸入先を固定しているのですが、その輸入先を決めるまでにいろいろな錫インゴットを使いました。長年の経験や勘も生かしながら、信頼できる素材を決まったメーカーから仕入れるようにしています。 ーいい原料を安定して仕入れるために、いろいろ工夫されているのですね。最後に、今後チャレンジしてみたいことがあれば教えてください。 技術などを若手に継承していくことが、私の使命だと考えています。今までは“錫器を作って売る”しかしていなかったのですが、錫器をもっと身近に感じてもらいたいと思い、最近はワークショップなども行っています。 錫器に触れる体験の提供は、将来的にお客様になってくれる方とつながることだと思っているので、そういった活動を通して伝統のよさを伝えていきたいです。 毎年、夏休みを利用して鹿児島に来て、伝統工芸に触れてくださる方もいらっしゃいます。いろいろと指導しながら作ってもらっているのですが、みなさんうれしそうに作ってくれるんです。 弊社がある鹿児島県は九州の中でも南の端にある県ですし、知名度は高くありませんが、観光で鹿児島県に来たときにはぜひ立ち寄ってください。