薩摩錫器の伝統技術を次世代に。「薩摩錫器工芸館」の今までとこれから
錫(すず)は加工しやすく、人体に害がない金属であるため、古くから飲食器や工芸品などに使用されている。鹿児島では錫が取れることがわかったのを機に、錫製の食器、錫器(すずき)が伝統文化として地域に根付いてきたそうだ。 そんな薩摩錫器の歴史を、100年以上も受け継いできた企業がある。鹿児島県霧島市に位置する「薩摩錫器工芸館株式会社(さつますずきこうげいかん)」だ。同社では伝統を未来へとつなげるために、新しい風も取り入れながら、技術により一層の磨きをかけている。 今回は同社代表の岩切さんに、これまでのあゆみや錫器の製造工程、今後の展望などを伺った。
108年にわたって薩摩錫器の伝統をつなぐ
ーまず、御社について教えてください。 弊社は、“錫”という金属を使って製品を製造・販売している会社です。この事業をはじめたのは1916年で、今年で108年を迎えます。 現在は、タンブラーや茶筒をはじめ、約300種類の錫製品を製造しています。 ー扱われている商品の数がかなり多いのが印象的です。なぜこんなにも多いのでしょうか? 弊社では、生活様式の変化に合わせてその時々で好まれる商品を作ってきました。108年も製造を続けていると、自然と商品の数が増えていきましたね。 錫器の特徴は、割れたり、錆びたりしないことです。プレゼントとして錫器を選ばれる方も多く、贈った人からも、贈られた人からも喜ばれています。 また、鹿児島は焼酎が有名で、焼酎を飲む文化があります。錫器で焼酎を飲むと、より一層おいしく感じますよ。 ー御社の錫器は、いろいろな賞を受賞されていますよね。 賞をいただくようになったのは、弊社 会長の岩切學が、30歳ぐらいのときに昭和天皇に錫器を献上したのがきっかけです。 岩切學は国の「現代の名工(卓越した技能者の表彰)」に選ばれました。また、“工業等の業務に精励し、他の模範となるような技術事績を有する方”の証しである「黄綬褒章(おうじゅほうしょう)」も受章しています。 ー技術力が認められた証しですね。日本の錫器と海外の錫器に違いはありますか? 日本と海外では食器の使われ方が異なるので、作られている製品に違いがあります。たとえば、日本では箸置きを使う文化がありますが、海外にはありません。そういった食文化の違いから、海外の錫器は洋食器が多くなっています。 最近、日本ではタンブラーといった比較的シンプルな製品が好まれています。 ー新商品を開発するときは、トレンドやお客様の意見も反映されるのでしょうか。 反映しています。弊社はよく展示会に出展しているんですが、その際にいただいたお客様の声を持ち帰り、現場に伝えて商品を改良しているんです。お客様の生の声は、聞くようにしています。