「KYOTOGRAPHIE 2025」のテーマは「HUMANITY(人間性)」。JRやマーティン・パー、石川真生らが参加
2013年より毎年、京都市内各所を舞台に開催されている写真に特化した芸術祭「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。その第13回目を迎える2025年のテーマが「HUMANITY(人間性)」に決定した。 2024年は約27万人の来場者を記録した同写真祭。今回のテーマについてKYOTOGRAPHIEの共同設立者/共同代表のルシール・レイボーズと仲西祐介は、次のようなメッセージを寄せている。 私たちは個人として、世界の一員として、どう生きるのか。 人間性には、素質や経験などそのすべてがあらわれる。変化し発展し続ける現代社会において、私たち人間はどう在るべきだろうか。 KYOTOGRAPHIE 2025のテーマ「HUMANITY」は、私たちの愛の力や共感力、危機を乗り越える力にまなざしを向けながら、日本と西洋という2つの異なる文化的視点を通じて人間の営みの複雑さを浮かび上がらせる。(中略) 写真の力を通じ、人間性とは何かをともに探し求めることが、他者への理解の一助となり、この混沌とした世界において自らがすべきことを共有するきっかけとなることを願う。 (プレスリリースより一部抜粋) 今回参加するアーティストと出身国は、プシュパマラ・N(インド)、JR (フランス)、グラシエラ・イトゥルビデ(メキシコ)、エリック・ポワトヴァン(フランス)、マーティン・パー(イギリス)、石川真生(日本)、アダム・ルハナ(アメリカ)、𠮷田多麻希(日本)、リー・シュルマン&オマー・ヴィクター・ディオプ(イギリス、セネガル)、甲斐啓二郎(日本)、イーモン・ドイル(アイルランド)、レティシア・キイ(コートジボワール)、劉星佑(台湾)。自身の経験を作品の中心とするアーティストらの作品からは、異なる文化的背景を持ちながらも、一人ひとりの在り方を大切にしつつ他者と調和することの大切さを読み取ることができるだろう。 例えば、フランス出身のJRは、道ゆく人に自分自身の認識と対峙するような問いを投げかける記念碑的なパブリック・アート・プロジェクトを行うストリート出身のアーティストだ。2017年よりスタートした市民参加型の大規模な壁画シリーズ「クロニクル」はとくに注目を集めている。 KYOTOGRAPHIE 2025では、京都の様々な場所で移動式のスタジオを構え、道ゆく人に声をかけポートレート撮影を実施。それらはコラージュされ、京都における人々の関係性や多様性を垣間見ることのできる、リアリティあふれる写真壁画作品《JR京都クロニクル2024》として発表されるという。会場は、京都駅ビル北側通路壁面、京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)。セノグラファーは小西啓睦。 石川真生は、1953年沖縄県大宜味村生まれ。沖縄を拠点に制作活動を続け、沖縄をめぐる人物を中心に、人々に密着した作品を制作している。2023年に開催された 東京オペラシティアートギャラリーでの大規模個展は人々の記憶に新しく、今年の2月には令和5年度芸術選奨文部科学大臣賞も受賞した。 同写真祭では、1970年代後半に当時米軍兵のなかでも差別されていた黒人兵だけが集まるバーで働きながら男女の恋愛模様や当時の沖縄をシャッターに収めた最初期の作品シリーズ「赤花」と、自身が愛してやまない人々を沖縄の離島で撮影するといった現在進行中の最新作があわせて発表される。会場は、誉田屋源兵衛 竹院の間。セノグラフィーはおおうちおさむが担当する。 写真家・マーティン・パーは1952年にイギリスに生まれ、94年にはマグナム・フォトに所属。鮮烈な色彩や難解な構図を用いた個性的な視覚芸術が特徴であり、世界の様々な文化を研究しながら、レジャー、消費、コミュニケーションといったテーマを辛辣な皮肉とともに長年探求している。 今回の展示では、近年世界中で問題視されている「マスツーリズム」(オーバーツーリズム)をテーマに、世界中で撮影してきたユーモアあふれる作品や開催直前に京都で撮影された新作を同時に発表。また、巨大なトラックを活用した移動式の展示方法も模索中だという。 インド出身でバンガロールを拠点とするプシュパマラ・Nは、様々な役柄に扮して示唆に富んだ物語をつくり上げるフォト・パフォーマンスやステージド・フォトを創作。その活動を通じて、女性像の構築や国民国家の枠組みといったテーマに取り組んでいる。 京都文化博物館 別館を舞台とする今展では、近年テート・モダンで展示された「The Arrival of Vasco da Gama」を含む3つのシリーズが展示される予定だ。 グラシエラ・イトゥルビデはメキシコシティ出身の写真家。故郷の地域社会を撮影したモノクロ写真で知られており、写真集『Juchitánde las Mujeres』(1979)は、彼女の生涯にわたるフェミニズム支援のきっかけとなったという。来年は京都市美術館 別館を会場に、イトゥルビデにとって日本初の大規模個展が開催されることとなる。 八竹庵(旧川崎家住宅)で展示を行うアダム・ルハナは、エルサレムとロンドンを拠点に活動するパレスチナ系アメリカ人のアーティストで写真家。同写真祭では、戦時下で暮らすパレスチナの人々の暮らしを作品を通じて紹介するという。 福岡県出身の甲斐啓二郎は、世界各地の祭りに赴き撮影を行う写真家だ。現場では乱暴にシャッターを切りながらも、そこに写る人々の「生」に着目し、その根源的な問いに向きあっている。会場のくろちく万蔵ビルでは、いままで撮影し続けてきたそのような作品シリーズを展示する。 「HUMANITY」をテーマに、人間と自然の関係性を写し出す作品も見られる。フランスの現代写真界を代表するエリック・ポワトヴァンは、ヌード、ポートレート、静物、風景といった古典絵画の主要なジャンルを、自然と身体を中心とした写真プロセスを通じ再考。それらを経て制作された作品を両足院で展示する。 また、日本でコマーシャルフォトグラファーとして活躍する𠮷田多麻希は、ルイナールのアーティスト・レジデンシー・プログラムに参加し制作した作品を発表する。𠮷田のセノグラフィは建築家の藤本壮介が務める。 イーモン・ドイルは音楽と写真作品の制作を行うアーティストだ。今回の展示では、ドイルの兄の急逝による母キャサリンの痛哭を映し出した作品《K》をサウンドとあわせて展示するという。 嶋臺(しまだい)ギャラリーでは、映像作家でアノニマス・プロジェクトの創始者でもあるリー・シュルマンと、歴史上の人物や架空の人物に扮したセルフポートレイトのポートフォリオの制作を行うオマー・ヴィクター・ディオプのふたりが展示を行う。 出町桝形商店街にあるASPHODELで展示を行うのは、自己愛、文化的アイデンティティ、エンパワーメントをテーマに活動するアーティスト、アクティビスト、起業家のレティシア・キイだ。自身の髪の毛を用いて表現されるポートレートには遊び心に加えて、異なるカルチャーとつながろうとする意識も感じられる。今回の展示では、アフリカンアーティストインレジデンスプログラムで京都に滞在し制作した作品が発表される予定だ。 同写真祭が実施している公募型のアートプロジェクトKG+で「KG+SELECT Award 2024」を受賞した写真家・劉星佑は、ギャラリー素形で展示を行う。会場では、台湾で同性婚が合法化されたことをきっかけに、その事実を自身の先祖に知らせる手段として、父親にウェディングドレス、母親にスーツを着てもらい結婚式を演出し撮影した受賞作品《TheMailAddressisNo Longer Valid》が紹介される。 ほかにもKYOTOGRAPHIE 2025では、サテライト・イベントとしてKG+(公募期間:~12月31日)をはじめ、トークイベント、シンポジウム、ワークショップ、キッズプログラムなど様々な企画を実施予定。また、同写真祭の姉妹イベントとなる国際的なミュージックフェスティバル「KYOTOPHONIE」もあわせて開催されるという。