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中野信子が語る「毒親」という存在について。

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VOGUE JAPAN

「親子関係のきしみは見えない癖となって、人格や行動のパターンを形作る」

――そもそも「毒親」とはどういう存在なんでしょう? 毒親という種類の親がいるわけではないんですよ。この本では、「子どもの成長にとって『毒』となるふるまいをする親」としていますが、それは親子の関係性を子どもの側からどう捉えるかによって決まってきます。 幼い子どもは世界を全部知っているわけではないので、たとえば「なぜ自分を大事に扱ってくれないのか」という不満が生じたとき、それを身近な対象である親に投影し、すべてを親のせいと認知してしまいやすい。そのように、子ども側の受け止め方によって毒親かどうかが決まってくるんです。 ――「毒親育ち」の子どもにはどういう影響があるのでしょうか。 成人したあとも、親(主たる養育者)以外の人との関係がうまくいかない生きづらさを抱えやすいことでしょうか。 子どもはごく幼いころに親(主たる養育者)との関係を通して「内的作業モデル」、簡単に言うと他者とかかわるとき無意識に使われるテンプレートを身につけます。周りから受容されて育った子は、自分が困ったら相手にこう伝えれば伝わるのだと信頼できます。ところが、そうされなかった子もたくさんいます。 拒絶されて育った子は、本当に必要なものがあっても言わずに黙ってしまう。泣き叫ばなければ要求に応えてもらえなかった子は、ちょっとでも困ったことがあると感情的に激しく主張したり。そうした反応の形を、親以外の相手や恋人、パートナーなどに対してもしてしまうんですね。親子関係のきしみが見えない癖となって、人格や行動のパターンを形作ってしまうのです。 「『親になればわかる』の繰り返しは、ただの価値観の押しつけ。心と知性の余裕を」 ――「よい子」「よい親」でいなければ、といった世間からのプレッシャーも、「毒親」「毒親育ち」を生む原因となるのでしょうか。 「よい子」「よい親」、あるいは「家族は仲良くなければ」といった幻想があるために、自分の意思を過剰に曲げさせられるところはあるでしょう。大人になったら自立した個人として、適切な距離感でコミュニケーションがとれるようになるといいのですが、なかなか難しいところもあります。 ひと昔前は、「あなたも親になればわかる」などと言われていました。とはいえ多様なライフスタイルを選ぶ人も増えるなか、「親になればわかる」と繰り返すだけではただの価値観の押しつけになってしまいます。他方、そう言われる側としては、そのことばの本意はどこにあったのかを考えたほうがいいでしょう。それは、「私にひどいことをしたお母さんにも事情があったんだ」と知ることです。そう考えるだけの心と知性の余裕が持てるかどうかが大事なんですよ。 ――先ほどおっしゃった、関係性の捉え方を変えるということでしょうか。 そうです。もちろん、つらい思い出をなかったことにはできません。過去に起こってしまったことの解決はもうつかないにしても、「あの人が悪いんだ」と一生恨み辛みで過ごすよりは、こんな事情も意味もあったんですねと感情の解決がつけられたらいいのではないかと思います。たとえば、人間の歴史とは、こうした親子の感情が蓄積された歴史なんだと知ることだって、価値のあることかもしれません。 「経験を重なるなかで、意識をすれば変えていける。自分を育てるのは自分なのだから」 ――先ほどもお話に出ていましたが、子が乳離れし、自分の足で立てるまでを考えても、ほかの哺乳動物と比べて人間は子育て期間が長いですよね。著書のなかで、その種としての脆弱さを補うべく、人間は共同体を作るために脳を発達させてきた、それが人間の武器なのだという部分が心に残りました。 昔はコミュニティが子育てを自然にサポートできていたんですよね。でも、核家族化が進んだいま、親と子の関係は一点集中になりすぎています。養育者のみに負担が集中すれば、余裕を持って育児などできません。とりわけ子どもが6ヵ月から1歳半の間に、自分が求めたらちゃんと返してくれる養育者であれば健全な関係が築けるのですが、親が気まぐれだったり不安が強かったりして愛着が不安定だと、子どもも不安定になってしまいます。 養育者は母親の場合が多いと思うのですが、その様子を見た周囲の人たちが「いま彼女は大変な時期だな」と気づいてサポートできたらいいですよね。20年、30年後の社会のためは、企業や自治体、国などのサポートが充実してお母さんお父さんの負担を軽くできればよいのですが、実際のところはまだまだだと思います。 ――最後に、「毒親育ち」「毒親サバイバー」の人たちに何かメッセージをいただけますか? 先ほど申し上げた「内的作業モデル」は、生まれたあとに作られる部分なんです。だから、経験を重ねるなかで意識すれば変えていける。親との関係で形作られたコミュニケーションの癖も、その後の人間関係によって変わります。9割は変わらないけれど、1割は放っておいても変わるんです。 たとえば、安定したパートナーとの間で、この人は自分が求めたら応えてくれる人だという信頼関係を築ければ、不安定だった人もだんだん安定してきます。親のことをゆるせないと思っていても、自立した大人同士の信頼できる関係を築ける人と一緒にいい人生をすごそうと思い切れるかどうかが分岐点になります。 親をやっつけることを目的とするのではなく、自分をどれだけ大事にできるか。いい人との関係を少しずつ築いていままでできなかったコミュニケーションができるように自分を育てていけるといいですね。大人になったら、自分を育てるのは自分なのですから。

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