”経営の神様”といわれた稲盛和夫さんが「人間として偉いかどうかは地位ではなく人柄だ」と説いていた意味
あらゆるものに感謝する
世界のどの基準から見ても、あの人は立派だ、あの人は偉いという基準になっているのは人柄であり、人格です。立派な人格を持っていることが最も大事なのです。 それはどういう人格なのかといえば、優しい思いやりを持ち、あらゆるものに常に感謝をする人です。 みなさんの場合にはご両親に感謝をし、きょうだいに感謝し、先生に対しても、また周囲にいる町の人たちにも感謝をし、平和に生きられることにも感謝をする。そして、そういう環境にあるだけに、思いやりの心で少しでも他人(ひと)さまのお役に立つようなことをする。 先ほど、みなさんが掃除をしていらっしゃる様子を拝見しましたが、みんなのためにという思いやりの心で、美しく気持ちのよいお便所になるよう一生懸命に掃除をしておられます。 つまり、自分が犠牲を払って他人のために尽くしてあげるというものが「思いやりの心」なのです。これはどんな思いよりも大事な思いです。 たいへん難しい科学技術の研究をするのも、大会社を経営するのも、思いやりの心がベースになって研究をしていくなら、経営をしていくなら、それはよい研究、よい経営になっていきます。 思いやりどころか、自分だけよければいいというエゴ丸出しで会社を経営し、自分だけがうまくいけばいいのだと思って研究をしたのであれば、ろくでもない経営、ろくでもない研究しかできません。 よい考え方、よい心というものは、肯定的で明るく、善意に物事を考えるということです。悪い考え方、悪い心というのは、否定的で、悪意に物事を解釈するということです。 みなさん、ぜひ明るく肯定的に、善意に物事を考えるということを心がけるようにしてください。私の話を聞いて、なるほどと思っても、それをすぐに実行に移すことは難しいでしょうが、ぜひ心がけていただきたいと思います。 (2006年12月22日 善通寺市立東中学校での講演より)
---------- 稲盛和夫(いなもり かずお) 1932年、鹿児島市に生まれる。1955年、鹿児島大学工学部を卒業後、京都の碍子メーカーである松風工業株式会社に就職。1959年4月、知人より出資を得て、資本金300万円で京都セラミック株式会社(現京セラ株式会社)を設立。代表取締役社長、代表取締役会長を経て、1997年から取締役名誉会長(2005年からは名誉会長)。また1984年、電気通信事業の自由化に即応して、第二電電企画株式会社を設立、代表取締役会長に就任。2000年10月、DDI(第二電電)、KDD、IDO の合併により株式会社ディーディーアイ(現KDDI 株式会社)を設立し、取締役名誉会長に就任。2001年6月より最高顧問となる。2010年2月には、政府の要請を受け株式会社日本航空(JAL、現日本航空株式会社)会長に就任。代表取締役会長を経て、2012年2月より取締役名誉会長(2013年からは名誉会長)、2015年4月に名誉顧問となる。一方、ボランティアで、全104塾(国内56塾、海外48塾)、1万4938人の経営者が集まる経営塾「盛和塾」の塾長として、経営者の育成に心血を注いだ(1983年から2019年末まで)。また、1984年には私財を投じ公益財団法人稲盛財団を設立し、理事長(2019年6月からは「創立者」)に就任。同時に、人類社会の進歩発展に功績のあった人々を顕彰する国際賞「京都賞」を創設した。2022年8月、90歳でその生涯を閉じる。 ----------
稲盛和夫