引き揚げられた知床観光船「KAZU1」造船関係者が注目した意外なポイント
5月27日、知床半島の沖合で沈没した観光船「KAZU1」が、サルベージ会社の作業船の上に引き揚げられた。「KAZU1」は、網走港で陸揚げされたのち、第一管区海上保安本部が原因究明に向けて、船体を本格的に調査することとなる。 「KAZU1」の沈没事故と、今回の引き揚げ作業を、業界はどう見たのか? 瀬戸内海の造船業界の関係者に聞いてみた。 「船舶は、船の総トン数に応じて、引き揚げに保険に入ることが義務づけられています。ところが、『KAZU1』は、20トン未満と小型なので、保険加入は強制されていませんでした。 水深120メートルからの引き揚げとなると、難度も費用も膨大になります。それでも、被害の大きさから、海上保安庁も国交省も、国費を投じてでも引き揚げする必要を強く感じたということでしょう。 引き揚げには、日本サルヴェージと深田サルベージが関わっていますが、この2社は日本屈指のサルベージ会社です。 水深120メートルから引き揚げられた『KAZU1』は、えい航中、再度、180メートルの海底に落下してしまいましたが、それだけ難しい作業だということです」 実は、『KAZU1』は、2000年から2004年にかけて、瀬戸内海を運航していた。 「瀬戸内海はおだやかな内海で、波も低い。そこを航行していた船が、外洋に面した日本海で走るなんて危険すぎます。『KAZU1』は、少しでも波が高ければ波をかぶってしまうような船です。 船の安全性を考えるうえで、見た目の印象というのはけっこう大事なんです。船体が錆びていないか、ヒビは入っていないか、という点を私たちは見ます」(前出・造船業界関係者) 「KAZU1」の沈没事故が、海運業や造船業に与える影響は、予想以上に大きいものだという。 「これまで、海で大事故が起きるたびに、法律ができたり、安全基準が高まってきました。 代表的なのが1912年のタイタニック号の沈没です。2200人を超える乗船者のうち約1500人が犠牲となり、1914年、海上における人命の安全を確保するための国際条約ができました。 今回の知床の事故で、安全基準はさらに厳格化されるでしょう。それだけでなく、今後、船舶の保険料が高騰するのは言うまでもありません。 それから、船には内航船と外航船があって、日本の内航船では、外国人船員の乗船が認められていないのです。 国内の造船、海運業は高齢化が進んでいて、成り手がなかなかいません。外国人労働者を受け入れるしかないのでしょうが、船の場合は、スパイが入り込んだらどうするといった議論もあり、なかなか話が進まない。 今回の事故を受けて安全基準やルールが厳しくなれば、いま以上に議論は停滞してしまうでしょう」 一民間事業者の不注意では済まされない話なのだ。