SNSの影響が大きい大リーグの「満票MVP」 のべ23選手、大谷翔平は3度受賞 阻む票に〝犯人捜し〟米メディアも批判恐れ
【ダッグアウトの裏側】 米大リーグの各賞が先週発表され、両リーグのMVPもサイ・ヤング(最優秀投手)賞も満票での選出になった。ア・リーグMVPに至っては、次点ロイヤルズのボビー・ウィット・ジュニア遊撃手(26)まで2位票をすべて得た。 【写真】MVPに満票で選ばれ、笑顔を見せるドジャースの大谷翔平と妻・真美子さん。真ん中には愛犬デコピンの姿も 11年前に筆者が理事を務めた全米野球記者協会(以下BBWAA)が表彰を始めた1931年以降、「満票MVP」はのべ23選手いる。年代別にみると、1930年代=2人、40年代=0人、50年代=2人、60年代=3人、70年代=1人、80年代=2人、90年代=4人、2000年代=2人、10年代=2人だったのに、20年代は24年までですでに5人と最多となっている(そのうち3度はドジャース・大谷翔平選手)。 1931年当時の球団数は各リーグ8球団。票が割れる可能性は15球団ずつに倍増した現在の方が高いはずだが、満票が増えているのはSNSの影響が大きい。満票を阻む票を投じると、ネット上で〝犯人探し〟が始まり、糾弾される。近年は批判を恐れて、異論を主張しない傾向が米メディアでさえ強まっている。 筆者は投票権を与えられた際、現在もBBWAA事務局長としてMVPなどの集計をしているジャック・オコネル氏からこう助言された。 「誰を選んでも構わないが、その理由や基準は明確にしておいた方がいい。どんな意見でも尊重されるから、質問を受けたら沈黙せず、はっきり答えることが大切だ」 MVPは近年まで、V(valuable=価値のある)の解釈によって評価の基準が変わる賞だった。「チームにとって価値ある選手」を選ぶ記者は、個人成績だけでなく公式戦の順位も考慮。個人成績で僅差の場合は、上位球団の選手が選ばれるケースが多かった。少数意見も、その理由さえ示されていれば受け入れられる土壌があったし、相違点を巡る議論は興味深かった。 満票傾向が強まる中、注目しているのが米野球殿堂入りの選手を選ぶ投票だ。年末が締め切りの投票用紙に、マリナーズなどで通算3089安打のイチロー元外野手(51)の名前が初めて記載された。シーズン262安打など記録は素晴らしい一方、ワールドシリーズには出られなかった。野手史上初となる1年目での満票選出の鍵は、ここをどう評価されるかだろう。 (元全米野球記者協会理事)