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医療体制を整備し、COVID-19を克服せよ ~集団免疫とワクチン・治療薬の最前線~(文・平野俊夫)

配信

中央公論

IL-6遺伝子を発見し全構造を解明するなど、輝かしい業績をあげてきた免疫学者の平野俊夫先生に、新型コロナウイルス感染症を克服するまでの道のりについてご寄稿いただきました。 集団免疫の方策について、また、今どのようなワクチン・治療薬が研究・開発されているのか、最前線の状況を解説。 6月10日発売の『中央公論』7月号に先駆けて、全文公開いたします。

はじめに

読者がこの論考を読んでおられる6月10日には日本はどのような状況になっているだろうか? 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が、緊急事態宣言(5月25日に全面解除)により一定の収束を迎え、ある程度社会生活が戻りつつあることを祈るばかりだ。  2019年12月末に中国・武漢ではじまった新型コロナウイルス感染症との闘いは水際作戦で失敗、パンデミックとなった。この闘いは、100メートル走でも1万メートル走でもなく、フルマラソンであることを改めて認識し、ペース配分を考えないと完走できない。そして、最悪を想定するのが危機管理の原則だ。治療薬やワクチンが開発されない限り、このマラソンレースが2、3年は続くと覚悟を決める必要があり、その間は、全ての社会活動の低下は避けがたい。  医療崩壊を防ぐとともに、市民生活や経済活動をどうするか。また政治のあり方や、子ども達の教育をどうするか。目の前の難局を乗り切るために、国、組織、そして個人のレベルで考え、可能な限り活動を続ける工夫をしながら、行動しなければならない。一刻も早くこの感染症の流行を収束させるためにも、それが何たるかを正しく知る必要がある。本稿では新型コロナウイルス感染症とは何かを考え、その克服の道を検討していきたい(感染者数などの数値は、後の比較のためにも、緊急事態宣言の延長が宣言された5月4日の脱稿時のものとする。数値はworldometerを参照した)。

過去の教訓は活かされたか?

 昨年12月末に中国で発生した新型コロナウイルス感染症は、当初、中国政府が情報公開せず、また事態を甘く見ていたこともあり、瞬く間に中国国内に広がった。台湾当局が素早く対応し、WHO(世界保健機関)に報告したにもかかわらず、1月当初はWHOをはじめ、欧米諸国も日本も見通しが甘かった感がある。流行は中国、韓国からヨーロッパ全域に拡大し、イタリアなどでは医療崩壊さえ起きた。そして今やアメリカが世界最大の感染国になり、治療の最前線に立っていたニューヨーク市の医師が自殺してしまうなど、医療現場の悲惨な状況が伝えられている。世界全体の感染者数は5月4日現在、約360万人、死者は24万8000人(致死率7%)となり、わずか1ヵ月程で感染者数が約7倍、死者の数は9倍にまで増加した。2002年のSARSの教訓を活かした台湾や、2012年のMERSの教訓を活かした韓国のように封じ込めに一定の成果をあげた例もあるが、今や世界中にウイルスが拡散し、パンデミックとなった。  日本では1月15日に初めての感染症例が報告され、2月はじめのダイヤモンドプリンセス号での感染騒ぎを経て、2月24日に専門家会議が今後1~2週間が瀬戸際であると発表した。そして政府は全国の学校に休校を要請した。感染爆発にまでは至っていないが、日本でも危機感が募り、4月7日に緊急事態宣言が東京都など7都府県に限定して発出され、4月16日には全国に拡大された。そして5月4日に期限を5月末まで延長することが発表された。あらゆる社会活動が冬眠状態に陥り、経済危機が迫る。  日本では、5月4日現在、感染者数は1万4877人、死者は487人で推移している(致死率3.3%)。感染者数はPCR検査の規模に依存するので海外のそれと必ずしも比較はできないが、人口100万人あたりの日本の死亡者数は4人であり、ベルギーの677人、スペインの540人、イタリアの478人、アメリカの207人と比較しても2桁少ない状況が続いている。医療崩壊が生じていないドイツの82人と比較しても20分の1だ。日本は、政府と国民が一致団結して行っている対策が功を奏しているように見える。一方で、単位人口当たりの死亡者数が少ないのは、まだ解明されていない他の理由によるものかもしれない。また、2010年に出された新型インフルエンザ対策総括会議の報告書に明記されているように、日本にもアメリカのCDC(疾病予防管理センター)などのような危機管理体制が整備されていれば、現在の混乱は回避できたかもしれない。今回こそ必ず教訓を活かして将来の感染症に備えることを肝に銘じるべきだ。