『パンドラの果実』科学で解き明かされる心霊現象 幽霊を否定できない?
『パンドラの果実~科学犯罪捜査ファイル~』(日本テレビ系)第6話のサブタイトルは「貴方しか見えない」。長谷部(ユースケ・サンタマリア)にしか見えないポニーテールの女の子(秋谷百音)を指しているようでもあり、先立った愛しい者に会いたい人にとっては、優しい言葉だとも思った。 【写真】『パンドラの果実』最新話カット5点 死んだ人間の目撃は脳の幻覚であり、幽霊の存在は科学で説明がつく。長谷部の金縛り体験について議論が交わされる科学犯罪対策室に、テレビ出演の依頼が入った。暇なあまり行方不明者リストを見ていたくらいだと、長谷部はうきうきと出演を希望するが、このとき見ていたリストに「彼女」が映っているように見えるのは気のせいだろうか。彼女の「見つけて」と、長谷部の(偶然だが)「見つけよう」という気持ちが合致しての、第6話のさまざまだったのではとも思う。 打ち合わせ早々に幽霊の存在に否定的な最上(岸井ゆきの)を、「検証すらせず否定から入るのか」と、心霊研究家の諏訪(ダイアモンド☆ユカイ)が焚きつける。彼らは双方の立場から、“土竜の間の幸子さん”の正体を解明することとなった。 検証時、苦しさを訴えて倒れてしまった長谷部。それらは、低周波音を聞いたときの症状に似ていた。また、幸子さんが「出現しなかった」という事実をもとに、科学の力で心霊現象が解き明かされる。 そのころ、幸子さんに会ったことがあるという女性が現れた。誰かを待っているようだったという宿泊客の幸子さんは、ある日、姿を消してしまった。首吊り自殺をした事実はないが、リゾートホテル建設と同時期に噂が広まり、客足が遠のいたのだという。 低周波音の発生源として、土竜の間の下にあるボイラー室を探索していた小比類巻(ディーン・フジオカ)らは、足場の崩壊により閉じ込められてしまう。さらには白骨遺体を発見、土竜の間のキーが落ちていたことから、幸子さんも同様に転落し、死亡したのだろうと推測された。 救出された諏訪は、小比類巻にぽつぽつと「どうして幽霊を信じるのか」について話し始めた。行方不明となっていた妹が、ある日、枕元に現れ「お兄ちゃん、どうして来てくれないの」と言った。そのとき、妹が死んでいると「分かっちゃった」という諏訪。夢まくらで妹が口にした場所で、遺体が見つかった。「向こうへ行く前に、最後に会いにきてくれたんだよな」。自らに言い聞かせるように、誰かに「そうだよ」と言ってほしいかのように、諏訪が呟く。 「幽霊などいない」と、その存在を完膚なきまでに検証し、否定してしまうことは、残酷なのかもしれない。大切な人にもう一度会いたいと願う感情、小比類巻が言うところの「希望」を、奪ってしまいかねない。 本作はサイエンスミステリーながら、幽霊が存在する可能性に余地を残した。亜美(本仮屋ユイカ)を想う小比類巻はもちろんのこと、誰しもにきっと「もう一度会いたい」と願う相手がいるだろう。実際にSNSでは、視聴者が自身の見解や希望を言葉にしていた。もちろん、「はっきりさせないのか?」「科学で検証しないのか」という感想もあった。科学犯罪捜査を題材にしているのだから、いち仮説を提示することに期待を寄せるのは当然のことだ。 また一方で、幽霊を否定できないとする人も多い。結論を曖昧にしたことを、優しさと受け止める人もいた。小比類巻がいう雷のメカニズム同様、科学ですべてが明らかになる日が来るかもしれない。それでも、雷は神の怒りであると信じ、清く生きようとしても良い。夢で見た亡き人を「会いにきてくれたのだ」と、信じたっていい。白黒つかないのではなく、つけたくないからグレーを選ぶ道もある。世の中はそうしたことであふれているし、そうすることで人の心の健やかさが成り立つこともある。あるいは「分からないことは怖い」と、知ることを選ぶ最上のような生き方もある。 さまざまな立場や感情に配慮し、決着をつけることなく、切なくも優しい余韻を残した第6話。科学を軸にしつつも、そこにある人間の感情にも寄り添った。あらためて世の中には、説明のつく現象と、説明のつかない感情がある。科学の進歩を望む小比類巻だが、願いの根源は「亜美に会いたい」という気持ち。幽霊の存在を完全には否定しない姿勢を、最上には「ロマンチスト」だと言われてしまうが、幽霊でもいいから会いたいという思いは、あって当然のもの。幽霊の存在について小比類巻は、科学の進歩による徹底解明よりも、グレーであることを望み続けるのではないだろうか。これは、推察でしかないが。
新 亜希子