老舗寿司屋がMSC認証クロマグロを買ったワケ
今秋、MSC認証を初取得した「太平洋クロマグロ」が豊洲市場に出荷された。1キロ6800円と高値で取引されたこのマグロを真っ先に仕入れたのは、東京・大森海岸の老舗高級寿司屋「松乃鮨」だ。同店の若大将・手塚良則さんは、海外通としても知られる若手寿司職人の一人。「今後、世界のマーケットを考えれば、生魚を食べる文化を持つ日本の古き寿司屋こそ、サステナビリティを意識することが重要だと思う」と話す。(寺町 幸枝) 老舗寿司屋がMSC認証クロマグロを買ったワケ
世界で感じた食のサステナビリティの重要性
大森海岸「松乃鮨」は明治43年(1910年)開業の老舗寿司屋で、若大将である4代目の手塚良則さんは、異色の経歴を持つ寿司職人として知られる。学生時代から魚の目利きと料理を父親から学ぶ一方で、卒業後にはプロスキーガイドとしてヨーロッパと北米に駐在し、英語力だけでなく、海外文化とホスピタリティーを会得した。
帰国して寿司職人となった後、その海外経験の豊富さから国内外の「日本食文化」にまつわるイベントでのケータリング依頼が舞い込むようになった。中でも昨年開催された「G20大阪サミット」では、各国のファーストレディーを集めた寿司の昼食会のプロデュースを担当。海外からのお客様からの質問を通して、「魚のサステナビリティ」を改めて意識するようになったという。
日本古来の漁業が持つサステナビリティ性
このG20の昼食会の成功をきっかけに、手塚さんは後日、ニューヨークの国連本部で開かれた海洋保全をテーマにしたイベントの場で、サステナブルな寿司ケータリングを企画展開することとなった。現地に赴いて、地球にやさしいサステナブルなシーフードリスト「ブルーシーフードガイド」に準じた寿司を握る経験をしたという。こうした海外の人たちとの交流を通じて、魚文化に精通した日本の漁業や食文化の素晴らしさを、もっと世界にPRするべきだと感じていると話す。
「日本の多くの漁師さんはサステナビリティの精神を持ち、代々誇りを持って漁業に携わっている。その素晴らしい水産業や魚文化、サステナビリティの意識をきちんと伝えるべきだと思う」と話す手塚さん。今秋、世界で初めてMSC認証を受けた冷凍の大西洋クロマグロを店で提供することにしたのは、「自然な流れ」だったという。今後は松乃鮨だけでなく、国内外のSDGsや海洋保全関連のイベントケータリングでも、このクロマグロを提供する予定だ。 現在はCoC認証(製品の製造・加工・流通全ての過程において、認証水産物が適切に管理され、非認証原料の購入やラベル偽造などがないことへの認証)に関しても最終合意に至ったという。年明けには晴れて、MSCのCoC認証を取得した寿司店第1号となる予定だ。 MSC認証はイオングループや日本生協連が消費者向けの商品販売を行ったり、パークハイアット東京がMSC認証取得済みのクロマグロをホテルのレストランメニューに加えたりするなどで、日本国内でも認知が広がりつつある。魚を扱う飲食店の代表格である寿司屋でも、今後は松乃鮨に続きサステナビリティを意識した魚を取り扱う店が増えていくことを願いたい。