アサド政権崩壊直後、イスラエルがシリアの最高峰を掌握した理由
(CNN) シリアのアサド政権が崩壊した後、イスラエルは間髪入れずシリア全土の軍事資産を爆撃した。反体制派の手に渡るのを防ぐため、500近い標的を爆撃し、海軍を壊滅させた。またシリアにあるとされる地対空ミサイルの9割を排除したとも主張している。 【画像】ゴラン高原の非武装緩衝地帯に展開するイスラエルの装甲兵員輸送車 しかしシリアの最高峰、ヘルモン山の山頂を掌握したことは、影響の持続性の観点からイスラエルにとって最も有意義な戦果の一つかもしれない。ただ当局者らは山頂の占領を一時的なものだと主張している。 エルサレム戦略安全保障研究所(JISS)のエフライム・インバル所長は「ここは地域の最高地点であり、レバノン、シリア、イスラエルを見渡せる」「戦略的に極めて重要。代わりになる山々は他にない」と述べた。 ヘルモン山の山頂はシリアに位置するが、一帯は50年間、イスラエル軍とシリア軍を隔てる緩衝地帯だった。イスラエル軍が制圧した8日まで、山頂は非武装化されており、国連の平和維持活動による巡回対象となってきた。 イスラエルのカッツ国防相は13日、軍に対し冬場の過酷な状況に向けた準備をするよう命じた。自身の声明では「シリアでの展開により、ヘルモン山山頂を制圧し続けることが安全保障上途方もなく重要だ」と述べている。 シリアの活動家団体によれば、イスラエル国防軍(IDF)は山頂を越え、シリア首都ダマスカスまで約25キロの地点にまで前進している。CNNはこの主張を独自に確認できていない。イスラエル軍の報道官は今週、部隊がダマスカスに向けて進軍しているとの見方を否定した。 イスラエルはヘルモン山と接するシリア南西部の戦略的高地、ゴラン高原を1967年の戦争で掌握。以後占領し続けている。シリアは73年の奇襲で奪還を試みたが失敗し、81年にイスラエルが併合した。国際法の下ではゴラン高原の占領は違法だが、米国はトランプ政権時代、イスラエルによる領有権の主張を認めている。 イスラエルは以降の数十年間、ヘルモン山の標高の低い部分を掌握し、スキーリゾートを運営するなどしていたが、山頂は依然としてシリアが抑えていた。 「我々にはシリアの国内情勢に干渉する意図はない」。イスラエルのネタニヤフ首相は動画の中でそう述べた。イスラエルがシリア国内の数百の標的を爆撃し、非武装緩衝地帯を手に入れてから数日後のことだ。「しかし我が国の安全保障を守るために必要なことは何でもするつもりだ」 標高2814メートルのヘルモン山の山頂より高い場所は、シリアにもイスラエルにも存在しない。近隣諸国でヘルモン山の標高を上回る山は、レバノンに1座あるだけだ。 JISSのインバル氏は、2011年に発表した学術論文でヘルモン山がもたらす多くの利点について書いた。 「シリア領内奥深くへの電子監視が可能になり、差し迫った攻撃があった場合、イスラエルは早期の警戒態勢が取れるようになる」。インバル氏はそう述べ、偵察機のような代替手段は単純に比較にならないと説明する。山頂に設備を設置するのとは異なり、偵察機は巨大なアンテナといった重量のある装置を運べないというのがその理由だ。対空ミサイルで撃墜される恐れもある。 また山頂からダマスカスまでは35キロほどの距離しかない。シリア側の山麓の丘を手中に収めれば、シリアの首都が大砲の射程に収まる計算になる。 ネタニヤフ首相はシリアの新政府に「手を差し伸べる」と明言している。また山頂の占領は一時的なものだとも主張している。一方で権力の空白にイスラム教の聖戦主義者のグループが入り込み、ゴラン高原のイスラエル人社会に脅威をもたらす事態は許さないと述べている。 ネタニヤフ氏によれば撤退の基準は、1974年の合意を守るシリア軍の設立が可能になり、国境の安全が保証されることだという。 それがいつ達成されるのかは分からない。 軍の撤退はあくまでも「政治的判断」だとインバル氏は指摘する。「軍としては喜んで占領し続けるだろう」というのが同氏の見方だ。