大阪都構想とも政令指定都市とも違う 横浜市など提唱の「特別自治市」とは
「二重行政」解消につながる?
橋下市長が政令指定都市の弊害として指摘していた「二重行政」は、特別自治市になると解消されるのでしょうか? 「特別市の代替案として誕生した政令指定都市は、あくまで暫定的な制度でしかありません。そのため、道府県との行政の境目が曖昧になっている部分もあります。例えば、公営住宅の建設や都市計画の策定などは道府県と政令指定都市の双方が実施しています。それが二重行政と映り、批判される要因でもありました。また、二重行政ではありませんが、生活保護行政の窓口は市にあり、職業訓練は道府県の管轄、ハローワークの運営は国が担当するなど、それぞれ所管が異なり、市民にとって使い勝手がよくありません。こうした縦割り行政的なところは、他の分野でもあります。特別自治市になれば一元化することができ、こうした不便さは解消されます。行政がよりスムーズになると考えています」(同会事務局) 大阪で都構想の議論が盛り上がる中、横浜市の林文子市長は都構想ではなく特別自治市のような基礎的自治体の権限を強化するべきだと主張していました。 特別自治市が実現すれば、道府県が窓口になっているパスポートの発給、都道府県警察が所管している道路標識の設置なども特別自治市が担うべき事務として移譲される可能性も出てきます。
「特別市」なら財源がより増える
政令指定都市が特別自治市を目指す理由は権限だけでありません。ほかにも財源の問題があります。 例えば、横浜市民は県民税と市民税を払っています。市民税は横浜市のために使われますが、県民税は神奈川県に納め、必ずしも横浜市に使われるわけではありません。しかし、特別自治市になると、県民税分も横浜市の財源になります。横浜市の財源が増えるわけです。 逆に言えば、横浜市が特別自治市になれば、これまで県税として期待できた財源が減るわけですから、その影響は市町村にも波及します。神奈川県のほかの市町村は横浜市の財源で支えられていた部分がありますので、その手当をどうするかという懸念材料が残るでしょう。 また、特別自治市になれば防災・福祉・交通・環境・衛生といった行政サービスを充実させなければなりません。それには専門的な施設を造らなければなりませんし、職員の採用・育成をする必要性も出てきます。権限が大きくなればなるほど、市がやらなければならない事務も負担も増えるのです。 「地域の個別の事情もあるので、都構想と特別自治市のどちらが優れているのかは判断が難しいところです。ざっくり言えば、広域自治体(一般的には都道府県)に権限をいったん集約させるのが都構想です。対して、特別自治市は道府県の有する権限を基礎的自治体(一般的には市町村)に移譲する考え方です。つまり権限を広域自治体に集約するか、基礎的自治体に集約させるのかといった違いがあります」(同会事務局) 現在、日本の人口の2割は政令指定都市に居住しています。通勤・通学している人も含めれば、その比率はさらに高くなります。近い将来、私たちが住む市でも「都構想か?」それとも「特別自治市か?」といった議論が起きるかもしれません。そのためにも違いを理解しておくことは必要なことではないでしょうか。 (小川裕夫=フリーランスライター)