2020年米大統領選の影の立役者、ステイシー・エイブラムスが民主主義をめぐる葛藤について語る
過去に経験したこともないような大統領選を経たアメリカ。ジョー・バイデンの勝利の鍵を握ったいくつかの州のなかで最も票の動きが注目されたジョージア州で、民主党の大統領候補に1992年以来の勝利をもたらしたステイシー・エイブラムスの存在が大きくクローズアップされた。 【写真】アメリカ民主党の人気女性議員、カマラ・ハリス&オカシオ・コルテスを徹底比較 投票権保護活動組織「Fair Fight」の創設者であるエイブラムスが、歌手・俳優、そして同じジョージア州で暮らすジャネール・モネイと民主主義をめぐる葛藤、人種間平等の探究、そしてエイブラムスが将来大統領に立候補する可能性などについて話し合った。
反撃すべき投票妨害の存在
ジャネール・モネイ(以下JM):投票妨害についての話をしましょう。投票妨害は、“最も力のある市民としての権利”を否定する手段だとあなたは説明しています。現在、アメリカの権力はステイシーさんの目にどのように映っていますか? それは一体、何を意味するべきなのでしょうか。 ステイシー・エイブラムス(以下SA):民主主義社会では、私たち国民の声を代弁する人間を選ぶ能力を得るには投票権を得るしか手段がないのです。まずそこを念頭に置いて。 アメリカは議会制民主主義の国で、すべての問題に関して国民全員に投票を依頼する国ではない。つまり、「ある代表者を選んで彼らにその仕事に集中してもらい、自分は自分の人生を生きる」ということ。けれどもあなたに目を向け、耳を貸し、あなたの代わりに声をあげてくれる代表者を選べなければ、その民主的な部分の意味が失われます。 私の使命は代表者を選ぶ部分と民主的な部分が確実に合致するようにすることです。トランプは民主主義が機能することを望んでいませんでした。自分の命令が法律になり、自分の無能さに抵抗する人はすべてが敵で、説明責任は人任せの、実質が伴わない権威主義的ポピュリストがトランプ大統領でした。 投票妨害に反撃する義務が私たちにはあるんです。アメリカという国が生まれた瞬間から、権力を共有することを恐れたごく少数の幹部の権力を守るために投票妨害が存在してきたのです。この国は投票妨害の上に成り立っているんです。 アメリカは建国当初、土地を所有している白人男性にしか投票権がありませんでした。黒人として生まれた人は奴隷でした。女性は黙っているべき存在でした。ネイティブ・アメリカンとして生まれた人は透明人間と同じ。そして1790年に帰化法が制定され、白人以外への門戸が完全に閉ざされた。 それ以来、独立宣言の前文にある“すべての人間は平等につくられている”という平等の約束を取り戻すために、私たちは230年という長い年月を費やしている。この言葉はスローガンのように聞こえるかもしれないし、私たちが直面している問題に対する淡い解決法でしかないかもしれないけれど、民主主義社会においては、自分が求める力を手に入れるためには、自分が持っている力を諦めてはいけないんです。 JM:多くの面で私たちは変化を要求している時代に生きていると思います。実際に変化を起こせる機会をどのように活かせばいいのでしょうか。 SA:ジャネールの音楽で私が一番好きな部分は、ジャネールが本当のことを言うから。そしてこの時を存分に活用するためには、真実が最も大切なアプローチであるべきだと私は思う。今何が起きているのか、その真実を伝えると同時にどうすればこの状況を修復できるのかも偽りなく伝えなければならない。 街頭のプロテスターに対する答えとして、「投票に行け」と言う人がいる。私はその言葉を大変不愉快に感じます。なぜなら、それだけが答えではないからです。私は抗議活動にも参加したし、投票のシステムに対しても抗議をした。両方が大切だから両方行うべきだと理解すること、それが私の両親の教えだった。両親は活動家で、投票権を手に入れるにはそれしか方法がないと知っていました。 投票権を手に入れたら両親は子どもの私たちを連れて投票場に行き、抗議にも行った。自分が求めるものを口にするだけでは足りない、それが現実になるように要求しなければダメだと私たちに理解させようとしていた。つまり、世界や国を変える救世主を選べるつもりになってはならない。そんなことは無理だから。 だからこの単純化を止めなければならない。私たちは責任感のある人を選び、その人に進歩を委ねることはできる。けれども、点と点をつなぐのは私たちの役目なんです。