関東大学野球選手権優勝、桐蔭横浜大学に学ぶ 強いチーム作りには何が必要か?【後編】
キーマン3「4番」
関東地区大学野球選手権大会を目前に控えたある日、神奈川大学野球秋季リーグ戦で2季ぶり12回目の優勝を果たした桐蔭横浜大で、今年のチーム作りのキーマンとなった主将、エース、4番、捕手の4選手に話を聞いた。そこには、ただ野球が強いだけではない、理想的な組織の在り方があった。 神奈川大学リーグ戦10試合で8本塁打(シーズン最多タイ)、23打点(シーズン最多記録)。桐蔭横浜大の4番、渡部健人内野手(4年・日本ウェルネス)は、最後の秋に大きな爪痕を残した。 1年春からリーグ戦に出場していた渡部は、常に注目を浴びてきた。まず目立つのがその見た目だ。身長176センチに対して体重は110キロを超えた辺りで変動を繰り返し、取材では必ずと言っていいほど「今、何キロ?」という質問を受ける。どっしりとしたその見た目通り豪快なホームランでスタンドを沸かすが、守備や走塁も器用にこなすことでまた話題となった。 活躍するときは派手に活躍するが、少し波を感じることもあり、進路をプロ1本に絞っていた渡部にとって、ドラフト会議で確実に指名されるという安心感を得るまではあと一歩というところだった。そして最後のシーズン、渡部は覚醒した。 それは、本気のようで本気になり切れていなかった渡部が、自分の力を最大限に生かす努力をしたからだった。今までは守備でエラーをしたり、打てなかったりするとイライラしてしまうことが多かったが、それではいけないと気持ちのムラをなくすようにした。 「最上級生なので、そこはしっかり意識してやっていかないと。悪いところを見せていたら周りにも感染していくと思うので、エラーしてもバットで取り返せばいいや、くらいに思うようにしました」 チームを勝たせるためにも、ドラフト会議で指名されるためにも、4番として結果を残さなければならない。新しく試した打撃フォームがピタリとはまった。 「日本ハムの大田泰示選手のように左足を真上にあげてまっすぐ下ろす感じで、軸の移動を少なくしつつ、西武の中村剛也選手のように力感のないスイングをマッチさせたらちょうど良くなりました。余計なことを考えず、まっすぐだけを待って、基本はそれを打ってホームラン。打ったら当たってくれる。野球人生の中で一番いい結果が出たなというのは感じますね」 10月26日。渡部はドラフト会議で埼玉西武ライオンズから1位指名を受けた。本人も「当日まで不安だったぐらいで、まさか1位指名とは思わなかった」と驚く結果だった。ドラフト会議後に行われる関東大学野球選手権では「ドラ1の渡部」として、今まで以上の注目を浴びることになる。「その辺を考えちゃうと自分の思うようなプレーはできないと思うので、気にしないようにします」と、平常心で大会に臨んだ。 そして迎えた初戦の第一打席、渡部はドラ1を証明する特大の一発を放った。さらに、渡部の成長を感じたのは準決勝の共栄大戦だった。1点リードで迎えた5回裏、2死2塁。打席に立った渡部は、1ストライクから2球目の低めの変化球を余裕を持ってボール球と見切り、見送った。相手バッテリーからすれば振って欲しい球に、ピクリともしなかった。そして、3球目。キャッチャーは内角に構えたが、真ん中に入ってしまったストレートを確実にとらえセンターオーバーの適時2塁打にした。 大会前に「ボールに集中できている」と言っていたが、それがよくわかる打席だった。この4年で、渡部は確実に頼れる男になった。自らがチームの核となって結果を残し、関東一の称号を手にした。 大学野球を終えた渡部は、これからプロ野球選手としての道を歩んでいく。仕事がある日でも朝早くから送り迎えをしてくれた父には、すでに車を買う約束をしている。厳しい世界に身を置くことになるが、豪快なホームランと明るい笑顔で、プロ野球界でもファンを魅了する選手になるに違いない。