【名物教授訪問】老化を食い止める酵素を発見した教授は、医学部を留年して研究者へ ベンチャーも設立
名物教授訪問@学習院大学
老化には、細胞の中にあるミトコンドリアが深くかかわっています。ミトコンドリア研究の第一人者である学習院大学の柳茂教授は、そのメカニズムを解明し、老化や、老化に関連した病気に歯止めをかける研究に取り組んでいます。医学部でのある出会いが、研究への道にかじを切るきっかけとなりました。特許を取り、ベンチャー企業も立ち上げて新薬の開発に取り組む研究者は、どんな道のりをたどってきたのでしょうか。 【写真】加齢に伴うミトコンドリアの形態変化
老化を食い止める酵素を発見
私たちの体は、約37兆個の細胞でできています。ミトコンドリアは細胞を構成する小器官の一つで、細胞が活動するために必要なエネルギーを作る大切な役割を担っています。 副産物として有害な活性酸素も発生しますが、若いうちは細胞に備わっている抗酸化機能がしっかり働き、余分な活性酸素は制御されています。しかし、加齢などでミトコンドリアの機能が劣化すると、エネルギーを作る機能が低下するだけでなく、過剰に発生する活性酸素を細胞が抑えることができなくなります。 その結果、まき散らされた活性酸素がDNAを傷つけ、たんぱく質や脂質を酸化するなどして、老化や、老化にかかわるさまざまな病気を引き起こします。柳教授はこう話します。 「老化を食い止めるために、活性酸素の発生を抑えられればいいのですが、ミトコンドリアが活性酸素の発生を制御する分子メカニズムは長年よくわかっていませんでした」 柳教授は、ミトコンドリアの膜上に存在し、ミトコンドリアの機能を正常に維持する役割を果たしている酵素(たんぱく質)を発見。この酵素を「ミトコンドリアユビキチンリガーゼ(略称:MITOL)」と名づけました。 このMITOL(マイトル)が、老化の速度を遅らせて「若返りの鍵」となる、重要な酵素なのです。地道な作業の積み重ねによって、たどり着いた発見です。 「動物実験で、MITOLを細胞から取り除いたり不活性化させたりしたマウスは、しわが深くなり、毛が抜けるなど老化が進むことを確認できました。MITOLの異常が、アルツハイマー病やパーキンソン病のほか、心不全などの循環器系の病気を引き起こすことも明らかになっています」