『海に眠るダイヤモンド』今はもう見られない端島をどう撮影? ロケハン担当者が明かす
TBS日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』のロケハンを担うチームのインタビューコメントが公開された。 【写真】『海に眠るダイヤモンド』第6話先行カット(全23枚) 本作は、昭和の高度経済成長期と現代を結ぶ、70年にわたる愛と青春と友情、そして家族の壮大な物語。1955年からの石炭産業で躍進した長崎県・端島と、現代の東京が舞台となる。 一人二役で主演を務めるのは、民放連続ドラマ主演は2011年放送の『11人もいる!』(テレビ朝日系)以来13年ぶりとなる神木隆之介。脚本に野木亜紀子、監督に塚原あゆ子、プロデューサーに新井順子と、『アンナチュラル』(TBS系)、『MIU404』(TBS系)、映画『ラストマイル』を生み出してきたチームが再集結した。 ドラマでは室内のセットでの撮影のほかに、野外でリアルな風景を使い撮影するロケ撮影というものがある。ロケ撮影を行うため、脚本や作品の構想にマッチする最適な場所を探すのがロケーションハンティング(ロケハン)の役割だ。 物語の舞台となる端島は、岩礁の周りを埋め立てて造られた海底炭鉱の島。日本で初めて高層鉄筋コンクリートのアパートが建てられ、最盛期には約5300人もの人が住み、世界一の人口密度を誇るほど賑わっていた。そんな特殊な環境の端島の映像化に挑戦している本作だが、今はもう見られないはずの端島の光景は、一体どこで撮られたのだろうか。 端島は「明治日本の産業革命遺産~製鉄・製鋼、造船、石炭産業~」の産業遺産群の一つとして世界文化遺産として登録されており、現地での長期に及ぶドラマ撮影は難しい。そのため美術部が作ったセットに加え、端島に見える場所を探して撮影している。塚原あゆ子監督からロケハンチームへのリクエストは、とにかく端島に見える場所を探してほしいという一点のみ。 制作担当の大藏穣は「これがシンプルで一番難しい。端島は狭い面積に鉄筋コンクリート造高層マンションが立ち並ぶ”緑なき孤島”という、とても特殊な場所なので、裏方としてはとても挑戦的な企画でした」と、大きな課題を明かす。「美術部が台本の柱書きを読んでどこで撮るか悩んでいた」というエピソードについては、「ロケハン担当としても、こんなところ現代にはないだろうな……という思いでした(笑)。でも、『こうすればなんとか成立するだろう』と、監督や美術部とアイデアを出し合いながら進めていきました」と、制作当初を振り返った。 “存在し得ない場所を探す”という前代未聞のロケハンが始まったのはクランクインの約4カ月前。関東近郊に1950年代の時代観を表現できる場所は少なく、地方まで視察に行く必要があるとわかっていたため通常よりも早めに動き出したそうだ。 ロケハン担当者は、制作にあたりまずは台本を読み、そこでの俳優の芝居の動きを自分なりに考える。そして、それを元に見つけた場所を監督にプレゼン。提案通りに使われることもあるが、監督のアイデア次第で意外な使われ方をすることもあるという。 「塚原監督は、その場所で撮る次のシーンとのつながりも考えている」と話す大藏は、ドラマの撮影事情についても教えてくれた。「劇中の設定では近い距離にA・B地点があったとしても、実際にはとても離れた場所で撮影していることも多いです。そのため場所選びを間違えると、同じ場所なのにA地点では海から太陽が昇り、B地点では夕日が海に沈むなんてことが起きて辻褄が合わなくなってしまう。だから、景観はピッタリだけどボツになる……なんてことも。それだけ太陽の位置や向きを考慮しているからこそ、きれいな映像になっているのだと思います」と、リアルを追求する塚原監督のこだわりにも言及。 また、炭鉱でのシーンもリアルを求め実際の鉱山で撮影しているという。「撮影でお借りしているのは山にある炭鉱なので、気温35度・湿度80%の端島の海底炭鉱とは違い、中はかなり寒い。環境は違えどキャストの皆さんも炭鉱員として働く厳しさを実感していたと思います」と、本作ならではの撮影エピソードを明かしてくれた コンクリートで造られた端島を舞台にする本作には、現代の風景で再現するのが困難な場所が多く登場する。大藏が中でも探すのに苦労したと語るのは、主人公の兄・進平(斎藤工)が波にさらわれた妻・栄子(佐藤めぐみ)を思い佇む「メガネ」(防波堤にある穴で、古い時代の桟橋の出入口)。穴越しに隣の島を見ると錯視効果で拡大して見えることからそう呼ばれ、戦後はゴミ捨て場と化していた場所。もちろん現代ではそんな場所は存在しないため、撮影では古い港のようなところを借りて、美術部と協力して再現しているという。 さらにもう1カ所、大藏を悩ませたのは学校。海沿いにあり、塀の向こうにすぐ海が見える学校が必要だったというが、現代の防災面から考えるとなかなか難しい条件である。しかし、「別の場所のロケハンをしていたときに参考になりそうな学校を見つけて、塚原監督に写真を見せたら、『ここしかないでしょう!ここでやろう!』と決断してくれて」と明かし、本編では実際にそのときに見つけた学校とVFXを駆使して端島の学校を再現している。 さらに、「端島銀座」を再現したオープンセット(野外にある装置)は、長期の撮影でも倒れないように躯体を活かして建てられている。こういった壮大なオープンセットを建てる場所を探すのもロケハン担当者の役割で、この場所を見つけるのにも別の苦労があったそうだ。「立地条件としては、長期間セットを建てておくことができ、撮影に適している環境であること。また、大掛かりなセットなので、倒れないようにするための技術的な条件を最低限満たしていることもポイントでした」と、いくつもの条件をクリアした場所であったことを教えてくれた。 とはいえ、リアルな風景だけで端島を再現するのには限界がある。そこで活躍しているのが先ほども登場したVFX技術。大藏も完成映像を観て驚いたという。「純粋にすごいなと思いましたし、もしかしたら視聴者の皆さんはほぼグリーンバックで撮影したフルCGだと思ってるんじゃないかな。美術部さんや僕らロケハン担当としては少し悲しいですが(笑)」と、笑いを誘った。 本作のロケハンに携わったのは5人ほどで、これまでに視察した場所は100カ所以上にも及ぶそう。そして全て足を運んだという。大藏は「ある程度ネットのマップで目星をつけて探しにいきますが、実際に見てみると想像と違うことも多い。理想的な場所はそう簡単には見つからないので、車で走って、歩いて探しての繰り返し。撮影での移動も含めると本作だけでも2万5000キロ以上は走ったのではないでしょうか」と、移動距離についても触れる。 特に本作では、“緑なき島”を再現できる場所を探すのに膨大な時間を要した。「背景に木が1本あるだけで、まずはどう隠すかを考えなきゃいけない。ロケハン担当として、そうやって撮影に制限を作ってしまうことは一番したくないことなんです。完璧ではないかもしれないけれど最適な場所を探し出すのが僕らの役目ですね」と仕事にかける思いを口にする。 ちなみに、ロケハン担当が場所を選ぶときに考慮するのは映像に映る風景だけではない。「ロケ地のクオリティはもちろん大切ですが、スタッフの皆さんの作業環境を整えることも僕たちの重要な仕事。近くに暑さをしのげる場所や、お手洗いなどがあって過ごしやすい場所がベストですね」と、チーム全体への配慮も。 本作の撮影現場はどこかゆったりとして和やかな空気が流れているという。「撮影はとても大変なはずなのですが、揉めることもなく穏やかで笑いも絶えない。家族のようにチームがまとまっています。キャスト&スタッフ全員が端島の島民になっているような感覚があるのではないでしょうか。端島に住んでいた島民の皆さんにも懐かしんでもらえる作品になるように、それぞれが愛を持って同じ方向を向いて制作に臨めている気がします」と、大藏はその印象を語る。 そんな大藏も、ロケハンのため端島を調べるうちにその素晴らしさを知った1人。「現代では珍しくなってしまいましたが、端島では人と人の距離が近かったことが幸せの理由だったのかもしれませんね。当時暮らしていた人たちにとっては、端島が地元であり故郷。そんな島を出ることになるのは故郷がなくなるのと同じような感覚で、寂しいだろうなと想像できます」と、時と場所を超えて存在する端島に思いを馳せる。 大藏は最後に「僕たちロケハン担当が用意するのはあくまで最低限の環境。そこに監督、美術スタッフ、そして撮影部の力が合わさって、あの映像ができあがっています。端島がどれほど素晴らしい場所だったかが映像を通して視聴者の皆さんに伝わったらうれしいです」と語った。
リアルサウンド編集部