ここまできた、中小製造業の人手不足を補う技術がスゴイ…南部鉄器のベテラン職人の思考が詰まった「AI師匠」も誕生
■ どうしても目立つ「従業員の負担が重くなる」打ち手 では、中小製造業は人手不足にどうやって対処しているのか。当研究所「中小企業の雇用・賃金に関する調査(2023年10-12月期特別調査)」の結果を紹介したい。 人手不足への対応をみると、「従業員の多能工化」と回答した企業の割合が45.5%と最も高く、次いで「残業を増加」(37.0%)、「業務の一部を外注化」(31.2%)などが続く(図-2)。 上位2項目は、既存の経営資源を活用するものであるが、従業員の負担は重くなる一方である。また、外注先も人手不足に直面しているとみるのが自然であり、業務の外注が人手不足の根本的な解決になるとは考えにくい。 「業務プロセス改善による効率化」(22.1%)も重要な取り組みであるが、すでに多くの中小製造業が日常的に取り組んでいると考えられる。効率化によって人手不足を解決するには、思い切った経営判断が必要になると考えられる。 そこで、本連載で注目するのは「設備導入による省力化」(21.9%)である。省力化とは、従前と同等またはそれ以上の付加価値を産出するために投入する労働量を減少させることを指す。省力化投資は、設備投資によって新たな経営資源を獲得し人手不足に対応していくものである。
■ 全行程の7割を自動化・売上40%増 まずは、量的な人手不足に対応する中小製造業者2社を紹介したい。 群馬県高崎市にある板金加工業者の株式会社行田製作所は、2016年から省力化投資を開始し、全工程の7割の自動化を実現している。 プレス加工の抜き、曲げ、溶接といった川上工程の自動化を進めてきた。そのしわ寄せで生じた仕上げ工程の量的な人手不足に対応するため、2023年に研磨作業を自動化する「Sander Robo」(以下、サンダーロボという)を開発した。 試作品の加工で仕事の7割くらいをサンダーロボが担い、残り3割を人の手で仕上げているそうだ。 2016年から8年の間、省力化投資をこつこつと進めてきた結果、従業員数を維持したまま売り上げを約40%増やした。工場の稼働に必要な従業員の数を抑えられるようになり、残業時間は半分に減った。 何より、省力化によって余裕が生まれたことで、新製品の設計や試作など、より付加価値の高い仕事に注力できるようになっている。 ■ 人海戦術での24時間稼働から脱却 群馬県富岡市にある株式会社土屋合成は、精密プラスチックの射出成形品加工(液体素材を金型に射出して成形する加工技術)を営んでいる。 手の平に乗る小さなサイズの射出成形を得意とする。なかには0.01ミリメートルのずれも許されない精密な加工が要求される部品もある。 創業以来、人海戦術で24時間態勢を維持していたが、夜間や休日の人手が足りないという課題に対応するため、そして、検査や梱包の工程での手間のかかる作業から従業員を解放するために省力化投資を進めてきた。 検査工程には、製品を一つずつピッキングし検査台に乗せ、画像認識機能を用いて検査できる機械を導入した。続く、梱包の工程には、射出成形機から成形品を自動で取り出し、計量、箱詰めまでできる機械を導入した。 さらに、工場内の60台におよぶ射出成形機の稼働状況を監視できるシステムを構築している。すべての射出成形機をネットワークに接続することで、社内のあらゆる場所から、リアルタイムの稼働状況を確認できるようになった。 このシステムの導入により、人手が足りていなかった夜間や休日も、ほぼ無人で稼働できるようになった。 省力化投資によって品質、量ともに安定した生産が可能になったことで、主力取引先からさらに多くの受注を請け負うことができるようになった。約17年間で売上高は4倍になっている。