ここまできた、中小製造業の人手不足を補う技術がスゴイ…南部鉄器のベテラン職人の思考が詰まった「AI師匠」も誕生
(田中 哲矢:日本政策金融公庫総合研究所 研究員) ■ 人手不足に「省力化投資」という選択肢 【写真】南部鉄器の「AI師匠」を導入したタヤマスタジオの職人たち 残業の増加や従業員の多能工化などで人手不足に対応する中小製造業者が多い一方で、省力化投資を進めることで人手不足を根本から解決しようとする中小製造業者もいる。 近年はロボットや人工知能(AI)、情報通信技術(ICT)などの発達により、人にしかできないと思われていた仕事においてもこれらテクノロジーを活用できる場面が生まれてきている。 そこで日本政策金融公庫総合研究所は、省力化投資で人手不足に対応している中小製造業の事例調査を実施した。 本連載ではその調査結果を紹介していく。初回となる今回は、人手不足の二つの側面について整理する。
■ 高齢者・女性の労働参加が活発でない中小製造業 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によれば、出生率、死亡率ともに中位で推移した場合の日本の総人口は、2056年に1億人を下回り、2070年には8700万人まで減少する見込みである。 人口減少と高齢化が進むなか、企業は高齢者や女性の労働参加により人手を確保してきた。しかし、製造業についてみると、ほかの産業ほど高齢者や女性の労働者が増えているわけではない。 厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」をみると、製造業にかかわる職業の有効求人倍率は、2015年以降、一貫して1を上回っている。 このことから、製造業では求人があるにもかかわらず、高齢者や女性の労働参加が活発ではないことがうかがえる。製造業は量的な人手不足に陥っていることがわかる。 ■ 「量的」だけでない、「質的」な人手不足も ものづくりの現場には、経験や技能を必要とする仕事が少なくない。人手不足の問題に対応するうえでは量的な不足だけでなく、質的な不足にどう対応していくかも考えていく必要がある。 経済産業省・厚生労働省・文部科学省編『2019年版ものづくり白書』によれば、特に確保が課題となっている人材は、大企業、中小企業ともに「技能人材」が最も高い(図-1)。特に中小企業では、「技能人材」と回答した企業が59.8%と半数を超えている。中小製造業における技能の重要性がわかる。 技能人材の不足を解決するためには、技能をもつ人材を採用するか、人材を採用したうえで技能を習得させる必要がある。 しかし、指導する人材が不足していたり、人材育成を行う時間を確保できなかったりなど、質的な人手不足を解決するには多くの課題がある。