児童婚の女性、裁判で離婚を勝ち取るもタリバンが無効に アフガニスタンの司法の今
マムーン・ドゥラニ(BBCアフガン・サービス)、カウーン・カムーシュ(BBCワールドサービス、カブール) 交通量の多い道路に挟まれた木の下に、書類の山を胸に抱えた若い女性がいる。 ビビ・ナズダナさんにとって、これらの書類は世界中の何よりも大切なものだ。2年間の法廷闘争の末、児童婚による結婚生活から自由になるために勝ち取った離婚の証明書だ。 しかし、現在アフガニスタンを実質統治している武装勢力「タリバン」の法廷は、この書類を無効化した。タリバンによるシャリア(イスラム法)の強硬な解釈によって、アフガニスタンの女性は事実上、司法システムで沈黙を強いられている。 ナズダナさんの離婚は、2021年9月にタリバンがアフガニスタンを支配して以来、取り消された何万件もの判決の一つだ。 ナズダナさんが7歳のときに結婚の約束をさせられた男性は、タリバンが首都カブールに押し寄せると、そのわずか10日後に裁判所に対し、ナズダナさんが懸命に争って手にした離婚判決を覆すよう求めたのだった。 現在20代で、農業を営むヘクマットゥラさんがナズダナさんとの結婚を要求してきたのは、彼女が15歳のときだった。ナズダナさんの父親が、一家の「敵」を 「味方」に変えるための、いわゆる「悪い結婚」に同意してから8年がたっていた。 ナズダナさんはすぐに裁判所に駆け込み、ヘクマットゥラさんとは結婚できないと何度も伝え、離縁を求めた。当時の裁判所は、アメリカが支援していたアフガニスタン政府が運営していた。裁判は2年かかったが、最終的にはナズダナさんに有利な判決が出た。「裁判所は私を祝福し、『これであなたは離別し、誰とでも自由に結婚できる』と言ってくれた」と、ナズダナさんは語った。 しかし、2021年にヘクマトゥッラさんが控訴。ナズダナさんは自分の裁判で直接陳述することは許されないと告げられた。 「法廷でタリバンは、シャリアに反するから法廷に戻るべきではないと言った。兄が私の代理を務めるべきだと」と、ナズダナさんは話した。 ナズダナさんの兄のシャムスさん(28)は、「もしこれに応じなければ、妹を力ずくで彼(ヘクマトゥッラさん)に引き渡すと言われた」と続けた。 この裁判では、元夫で、現在は新たにタリバンに入隊したヘクマトゥッラさんが勝訴した。シャムスさんは故郷のウルズガン州の裁判所に、ナズダナさんの命が危険にさらされていると説明しようとしたが、誰も耳を貸さなかったという。 その結果、シャムスさんとナズダナさんは逃げるしかないと決断した。 3年前に政権に復帰した際、タリバンは過去の腐敗をなくし、イスラム法の一種であるシャリアの下で「正義」を実現すると約束した。 それ以来、タリバンは約35万5000件の事件を精査したという。 そのほとんどは刑事事件で、うち40%は土地をめぐる紛争、さらに30%は、ナズダナさんのケースのような離婚を含む家族問題だと推定されている。 ナズダナさんの離婚判決は、BBCが首都カブールにある最高裁判所のバックオフィスに特別に立ち入りを許された際に発見された。 アフガニスタン最高裁のアブドゥルワヒド・ハカニ報道官は、ナズダナさんの離婚判決について、裁判にヘクマトゥッラさんが「出席していなかった」ため無効だと述べ、ヘクマトゥッラさんに有利な判決が出されたことを認めた。 「腐敗した前政権による、ヘクマトゥッラとナズダナの結婚を取り消した決定は、シャリアと結婚のルールに反するものだった」と、ハカニ報道官は説明した。 しかし、タリバンによる司法制度改革の約束は、単に解決済みの事件の見直しにとどまらない。 タリバンは、男女を問わずすべての裁判官を組織的に解任し、自分たちの強硬な視点を支持する人々と入れ替えた。 女性はさらに、司法制度に参加する資格がないとされた。 タリバンの最高裁判所の対外関係・コミュニケーション部のアブドゥルラヒム・ラシッド部長は、「女性には裁く資格も能力もない。我々のシャリアの原則では、司法の仕事には高い知性を持つ人が必要とされているからだ」と説明した。 司法の場で働いていた女性たちにとってこの喪失感は大きい。また、その影響は本人たちだけにとどまらない。 元最高裁判事のファウジア・アミニさんは、法廷に女性がいなければ、法の下で女性の保護が改善される望みはほとんどないと話す。アミニさんはタリバンの復権後、国外に逃亡している。 「私たちは重要な役割を果たした。たとえば、2009年に制定された女性に対する暴力撤廃法は、私たちの功績のひとつだ。また、女性のためのシェルターに関する規制、孤児後見制度、人身売買禁止法などにも取り組んだ」 アミニさんはまた、ナズダナさんのケースのように、過去の判決を覆すタリバンのやり方を一蹴した。 「女性が夫と離婚し、その証拠となる裁判書類があれば、それが最終的なものだ。政権が変わったからといって、判決が変わってはならない」 「アフガニスタンの民法は半世紀以上前のものだ。タリバンの発足前から運用されている」 「離婚に関する規定を含め、すべての民法や刑法はコーラン(イスラム教の聖典)に合わせて作られている」 しかしタリバンは、アフガニスタンの前政府は十分にイスラム的ではなかったと主張する。 タリバンの最高裁のラシッド部長によると、タリバンは8世紀にさかのぼるハナフィー学派の宗教法に大きく依存している。ただし、その内容は「現在のニーズを満たす」ために更新されているという。 ラシッド部長は、「以前の裁判所は刑法と民法に基づいて判決を下していた。しかし、現在はすべての判断がシャリアに基づいている」と述べ、すでに整理した事件の山を誇らしげに示した。 元最高裁判事のアミニさんは、アフガニスタンの法制度に関する今後の計画にはあまり感心していない。 「タリバンに聞きたい。彼らの両親はこれらの法律に基づいて結婚したのか、それとも彼らの息子が書こうとしている法律に基づいて結婚したのかと」 隣国の2本の道路に挟まれた木の下にいるナズダナさんにとっては、どちらも何のなぐめにもならない。 20歳になったばかりのナズダナさんは、離婚書類を握りしめ、誰かが助けてくれることを願いながら、1年間ここにいる。 「国連を含め、多くのドアを叩いて助けを求めたが、誰も私の声を聞いてくれなかった」 「どこに支援があるのか。私には女性としての自由を得る資格がないのか」 注:BBCはヘクマトゥッラさんに連絡をつけられず、コメントを得られなかった。 (英語記事 A child bride won the right to divorce - now the Taliban say it doesn't count
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