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名曲散歩/五輪真弓『恋人よ』は兄と慕う人物との永遠の別れの曲

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SmartFLASH

 東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。 お客さん:お、このイントロは、五輪真弓の『恋人よ』。ただならぬ世界に引きずり込まれそうな感じがするね。 マスター:この重厚感あふれるイントロは、歌い出しまで実に50秒もあるんだ。 お客さん:ある悲しい経験をもとにした曲だって聞いたことがあるけど……。 マスター:実はそうなんだ。それは1980年5月18日のこと、五輪真弓にとって兄のような存在だった編曲家の木田高介さんが、交通事故を起こし、そのまま帰らぬ人になった。 お客さん:まだ若かったのかな。 マスター:享年31。その短い生涯のなかで、木田さんは、上條恒彦と六文銭の『出発の歌』、チューリップの『魔法の黄色い靴』、かぐや姫の『神田川』、りりぃの『私は泣いています』などを手がけた天才アレンジャーだった。       お客さん:もし生きていたら、日本の音楽シーンも変わっていたろうね。 マスター:間違いないね。五輪真弓自身もずっと涙がとまらず、しばらくの間、歌を作れるような状態ではなかったという。 お客さん:それはしょうがないよね。 マスター:そして何よりも、その葬儀で悲しみに暮れる奥さんの姿が忘れられなかったという。それをもとにして作ったのが『恋人よ』だったんだ。 お客さん:「この別れ話が冗談だよと笑ってほしい」という歌詞が心に響くね。 マスター:それだけの思いがこもった歌だったからこそ、多くの人の感情を揺さぶって、のちに淡谷のり子と美空ひばりという2大女王にカバーされるほどになったんだ。 お客さん:名曲の裏に悲劇ありか……。あらためてもう一度、歌詞をかみしめて聞いてみよう。  おっ、次の曲は……。 文/安野智彦 『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中 参考:朝日新聞「もういちど流行歌」(2016年11月5日)

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