難関アングリル峠をカーシーが制す 僅差の総合争い、マイヨロホは再びカラパスに
ブエルタ・ア・エスパーニャ2020の第12ステージが11月1日に開催され、最大勾配23.5%のアングリル峠山頂にフィニッシュする難関山岳ステージをヒュー・カーシー(イギリス、EFプロサイクリング)が制し、初のグランツール区間勝利を飾った。総合1位のプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)はタイム差なしで総合2位のリチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ)から10秒失ったため、マイヨロホはカラパスの手に渡った。 カーシーがグランツール初優勝。個人総合でも3位に浮上した ©PHOTOGOMEZSPORT2020 カテゴリー山岳が詰め込まれた難コース 今大会最大の注目ステージといっても過言ではない、「魔の山」アングリルが登場する第12ステージは、ポラ・デ・ラビアナからアルト・デ・ラングリルまでの109.4kmで争われた。110km弱のショートステージに、カテゴリー山岳は3級・3級・1級・1級・超級と5つ詰め込まれている。フィニッシュ地点のアングリルは登坂距離12.4km・平均勾配9.9%にして、最大勾配は公式には23.5%という激坂超級山岳だ。その手前に2つある1級山岳はモスクエタモスクエタは登坂距離6.6km・平均勾配8.4%、アルト・デル・コルダルは登坂距離5.4km・平均勾配9.3%とどちらも強烈だ。 レースは大人数の逃げが決まり、山岳賞ジャージを着用し総合成績でも8分14秒遅れに留めているギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス)、総合で9分39秒遅れのマッティア・カッタネオ(イタリア、ドゥクーニンク・クイックステップ)、さらにグランツール区間勝利経験者のナンズ・ピーターズ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)、ルイスレオン・サンチェス(スペイン、アスタナ プロチーム)を含む20人の逃げが生まれた。 そこへ、ダヴィデ・フォルモロ(イタリア、UAE・チームエミレーツ)を含む数人の追走集団ができ、時間はかかったものの先頭集団に合流を果たした。メイン集団はユンボ・ヴィスマがコントロールし、タイム差は2~3分程度に抑えられていた。 ユンボ・ヴィスマがメイン集団をコントロールする © Unipublic/Charly López 1つ目の1級山岳であるモスクエタの上り区間で、モビスター チームがメイン集団を率いてペースアップ。逃げ集団とのタイム差を1分以下へと縮めていく。マルタンは序盤の3級山岳2つに加えて、このモスクエタでも先頭通過した。 集団への吸収を嫌い、逃げ集団の動きが活性化。2つ目の1級山岳コルダルの上りでは、カッタネオとサンチェスが抜け出す展開となった。一時は遅れを喫したマルタンだったが、山頂まで残り1.3km地点で先頭2人に追いついた。そのまま3人で山頂に到達。マルタンは無事に4つのカテゴリー山岳で先頭通過を果たし、山岳ポイント26点を獲得。山岳賞争いで2位以下に大差をつけて、独走状態となっている。 ラスト1kmで勝負を決めたカーシー さらにモビスターに代わって、クリストファー・フルーム(イギリス、イネオス・グレナディアーズ)が先頭に立ちハイペースで集団コントロールを開始。往年の力を取り戻したかのような強力な走りで、リチャル・カラパス(エクアドル)を引き連れながら、集団にダメージを与えた。 逃げ続けた先頭3人はいよいよアングリルの麓に到達。メイン集団とのタイム差は30秒程度まで縮まっており、吸収は時間の問題だった。 その集団はフルームに代わって、ユンボ・ヴィスマが再び先頭でコントロール。アシストを4人残す鉄壁の布陣で、残り10.5km地点で逃げを吸収。ロベルト・ヘーシンク(オランダ)、ヨナス・ヴィンゲゴー(ノルウェー)のけん引により、総合7位のフェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)、同8位のアレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)、同9位のワウト・プールス(オランダ、バーレーン・マクラーレン)、同10位のミケル・ニエベ(スペイン、ミッチェルトン・スコット)らが相次いで脱落した。 残り3.6km地点、エンリク・マス(スペイン、モビスター チーム)がアタックを決行し、集団から抜け出した。さらに、ヒュー・カーシー(イギリス、EFプロサイクリング)とアレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナプロチーム)も抜け出した。セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ)に守られたログリッチは自分のペースを守り、その後ろにはカラパスとダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)が張り付いている状況だった。 新人賞ジャージのマスがアタック © Unipublic/Charly López 最大勾配区間に差し掛かると、先頭のマスがさらに加速して後方との差を広げていくなか、カーシーとウラソフはログリッチグループに追いつかれてしまう。残り2km付近で満を持してカラパスがアタック。カーシーが追従し、2人で一気にマスに追いついた。一方でログリッチは全く反応できず、大きく差をつけられてしまった。 残り1km付近で今度はカーシーがアタック。勾配が緩んだ区間ということも相まって、カラパスとマスを一気に突き放していく。ログリッチは依然としてペースが上がらず、6~7番手に沈んだままだ。 ログリッチは10秒失ってマイヨロホを手放すことに © Unipublic/Charly López カーシーは後続が見えなくなるくらい差を開いた勢いそのままに山頂に到達。グランツール初区間勝利を飾り、総合3位に浮上した。 カーシーに置いていかれたカラパスは16秒遅れの区間4位でフィニッシュ。ログリッチはクスの献身的な働きもあって先頭から26秒遅れでフィニッシュし、カラパスから10秒遅れに留めた。 マイヨロホを奪回したカラパスだが上位勢は僅差のままだ ©PHOTOGOMEZSPORT2020 結果としてカラパスはマイヨロホを獲得するも、休息日を挟んで開催される第13ステージはログリッチが得意とし、カラパスが苦手とする個人タイムトライアルステージだ。概ね平坦路の33.7kmのコースで争われるが、ラスト1.8kmは平均勾配14.8%、最大勾配29%の超激坂が待ち構えている。ログリッチにとってはタイムを挽回する絶好の機会となるだろう。 だが、カーシーもまた決してタイムトライアルが苦手な選手ではなく、ダークホース的な存在となりつつある。総合4位のマーティンまで35秒差という接戦のマイヨロホ争いの行方はまだまだもつれそうだ。 第12ステージ結果 1ヒュー・カーシー(イギリス、EFプロサイクリング)3時間8分40秒 2アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ プロチーム)+16秒 3エンリク・マス(スペイン、モビスター チーム) 4リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 5プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)+26秒 6セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) 7ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション) 8ワウト・プールス(オランダ、バーレーン・マクラーレン)+1分35秒 9マイケル・ウッズ(カナダ、EFプロサイクリング) 10フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)+2分15秒 個人総合(マイヨロホ) 1リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 48時間29分27秒 2プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)+10秒 3ヒュー・カーシー(イギリス、EFプロサイクリング)+32秒 4ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション)+35秒 5エンリク・マス(スペイン、モビスター チーム)+1分50秒 6ワウト・プールス(オランダ、バーレーン・マクラーレン)+5分13秒 7フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア、ボーラ・ハンスグローエ)+5分30秒 8アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)+6分22秒 9アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ プロチーム)+6分41秒 10ミケル・ニエベ(スペイン、ミッチェルトン・スコット)+6分42秒 ポイント賞(プントス) 1プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ) 147 pts 2リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 104 pts 3ダニエル・マーティン(アイルランド、イスラエル・スタートアップネイション) 100 pts 山岳賞(モンターニャ) 1ギヨーム・マルタン(フランス、コフィディス) 76 pts 2リチャル・カラパス(エクアドル、イネオス・グレナディアーズ) 30 pts 3セップ・クス(アメリカ、ユンボ・ヴィスマ) 27 pts 新人賞(マイヨブランコ) 1エンリク・マス(スペイン、モビスター チーム) 48時間31分17秒 2アレクサンドル・ウラソフ(ロシア、アスタナ プロチーム)+4分51秒 3ダヴィ・ゴデュ(フランス、グルパマ・エフデジ)+6分37秒 チーム総合 1モビスター チーム 45時間46分13秒 2ユンボ・ヴィスマ+1分29秒 3アスタナ プロチーム+26分39秒