「油っぽい」「意外と美味しい」と賛否両論…。セブンの「ドーナツ再挑戦」に見るコンビニ業界の大転換
このUFOキャッチャーは100円でプレイでき、客がコンビニに滞留し、結果的に客単価がアップするという狙いだ。まさにコンビニという「空間」の価値を訴求する政策だ。 ちなみにローソンは三菱商事とKDDIと共同で、ネットでの購入体験をリアル店舗で体験できるような「未来のコンビニ」に向けた仕組みを進めていて「空間へのこだわり」を見せている。 このように見ていくと、各社がそれぞれの「強み」を強化し、そこに「選択と集中」している様子がうかがえるのだ。
■コンビニが目指すべきは「空間価値の創出」? 最後に、個人的な展望を書いておく。 各社の戦略の中で個人的には「場所」としてのコンビニの価値を押し出す方向が良いのではないかと思っている。 地方などに行ってみれば、その駐車場で地元の若者がたまってダベっている……なんて姿を見かける。どこか「コミュニティ」の場所として、コンビニは機能しているのだ。芥川賞を受賞した村田沙耶香『コンビニ人間』では、コンビニで働く主人公を通して、そこで生まれる奇妙なコミュニティが描かれるが、それぐらいコンビニは「便利な店」だけでない「場所」としての価値を持っていると思う。
実際、これは筆者の夢想ではない。ECなどが発達し、欲しいものはネットでも購入できるようになった現在、コンビニの一つの価値は「なんでも買える」だけでなく、「人々が集う場所」を作ることにあるのではないか。その意味で、その真価は今後「空間価値の創出」になっていくのではないか。 とはいえ、まだまだ高齢者層はECなどに慣れていないから、「モノを買う」場所としてのコンビニの役割が大きいのも確か。ただ、長期的なスパンで見たとき、ECの浸透は必至で、そのとき、リアル店舗としてのコンビニは、その空間価値を追求する方向に向かっていくのが良いのではないだろうか。
セブンのドーナツについては、今のところ賛否両論という印象だ。だが、この再挑戦こそが、コンビニが「便利な店」だけでない、「場所」としての価値を重視する姿勢の表れだと感じる。 「リアル空間」としての価値を持つコンビニがどうなっていくのか、現在の動向も踏まえて注視していきたい。
谷頭 和希 :チェーンストア研究家・ライター