「認知症に効く」とうたう健康食品に、高いお金を払う価値はあるのか?エビデンスのすり替えに注意を【山田悠史医師】
「認知症に効果的」とする広告を鵜呑みにしてはいけない
それではなぜWHOが推奨するのかと思われるかもしれませんが、WHOが推奨しているのは、あくまでも地中海料理であり、そこに含まれる単一の食品の摂取を推奨しているわけではありません。 このように、「認知症に効果的」とする広告は、議論をすり替えるなどして、あたかも本当に効果的であるとわかっているようにあなたを魅了してきます。 特定の食品を断定に近い形で「認知症に効く」「認知症予防に効果的」と書かれていたら、「本当?」と立ち止まる必要があります。 「いやいや、アーモンドを摂取するぐらい別に害はないしいいじゃないか」と言う方もいるかもしれません。 たしかに、アーモンドをおやつなどとして摂取すること自体には全く問題ありませんし、もしかしたら認知症予防に良いかもしれないと信じることも悪いことではないと思います。
ひとつの食品に傾倒することのデメリット
しかし、注意すべき点もあります。例えば、認知症予防に有効とよく謳われているものにポリフェノールが多く含まれる赤ワインがあります。これも嗜む程度であれば問題とはなりませんが、認知症に効くからと毎日2杯3杯と飲み進めることになれば、アルコールの持つリスクの方が懸念されます。 また、アーモンドのように一時的な食べすぎも大きな問題にはならない食品でも、一つの食品に傾倒してしまうと、そればかり多く摂取することで、それと引き換えに他の食品の摂取量が減ることになり、栄養のバランスは偏ることになります。すると、本来必要だった栄養素やビタミンの摂取量が落ち、場合によってはそれらが足りないことによる健康リスクを抱えることになります。 実際、こんな人に出会ったことがあります。高齢の母親の認知症が心配で、母親のためにご飯を作る娘が、真剣に認知症の勉強をして、突然食事を緑黄色野菜中心で、オリーブオイルを使った料理に変え、母親が好きだった肉類を全く出さなくなったそうです。
それ以来、母親の食が細くなり、体重が落ち始めてしまったため、相談に来られました。認知症になってほしくないから野菜中心に食べてほしいのに、あまり食べてくれないという相談内容でした。娘が調べたのは、全て医師や栄養士が監修した記事や本で、それを信じて突き進むには十分な内容でした。 しかし、冷静になって外側から俯瞰すれば、物事のおかしさに気がつけるはずです。認知症予防を強調しすぎるあまり、食べることの幸せが失われ、体重が落ち、健康を害することになっていたのですから。これでは本末転倒です。 もちろん、娘の母親を想う気持ちは十分理解できるものです。また、実際牛肉や豚肉などの赤い肉やソーセージやハムといった加工肉は、認知症リスクを増やす可能性を示唆する研究(参考文献3)もある食品です。このため、科学的にはあながち間違った理解や行動をしていたわけではないかもしれません。