「コロナの嵐」吹き荒れる20年4月 ANAが公開した「機内写真」は航空事業者の矜持そのものだった!
貨物が座席に座り始めた日
コロナ禍の影響で、航空各社は旅客による売り上げの大半を失った。逆境の中打ち出した一手は、余剰となった旅客便の座席を活用する貨物輸送だった。2020年4月22日。日系航空会社大手のANAより、とある写真が公開された。公開されたのは、満席の旅客便の機内だった。 【画像】公開された「写真」を見る この旅客便を満席にしたのは、人間ではなかった。座席を埋め尽くしていたのは、大量の医療関連物資の箱。つまり、「貨物」だったのだ。 日本の航空会社による初の試みを撮影したこの写真は、コロナ禍における航空業界の収益の大黒柱を象徴することになる。 旅客が姿を消した旅客便の収益改善のため、貨物室のみならず座席にも貨物を積載する――。今になって振り返ると簡単なように思えるかもしれないが、特に日本では前例がなかった。今回の取り組みに着手するまでに、航空会社には苦悩があった。
新型コロナ感染拡大の影響
2019年が終わりを迎えようとしていた頃、新型コロナウイルスが中国で確認された。このときはまだ、中国路線の動向を若干気にしながらも、どこか対岸の火事という雰囲気が航空各社に見受けられた。 ところが2020年年初、航空業界を取り巻く雲行きが急激に怪しくなってきた。日本をはじめとする世界各国で新型コロナウイルスの感染が次々と確認され始め、瞬く間にパンデミック(世界的大流行)に陥った。 そして春を迎える頃、全世界の空からは旅客便がほとんど消えた。それは、航空会社の売り上げがほとんど消えたことを意味する。さすがに航空各社は慌てふためいた。ビジネス客もレジャー客もコロナ禍で全く動けず、もはや企業努力ではどうにもならない事態となってしまったからだ。 それどころか、航空各社には元来膨大な固定費が存在する。例えば前出のANA(ホールディングス)について、コロナ禍突入前の2018年度(2019年3月期)決算資料を見てみよう。その中で航空事業の営業費用の項目を深掘りしてみる。 一口に固定費と言ってもさまざまではあるが、ANAの場合、代表的なものは ・航空機材賃借費 ・整備部品/外注費 ・減価償却費 ・外部委託費 ・人件費 だ。 これら固定費の2018年度の実績は合計8807億円。これは全営業費用1兆6538億円のおよそ半分に相当する数値だ。 紹介したのはあくまでもANAの例だが、他の航空会社においても全営業費用に占める固定費の割合は同程度と考えて差し支えない。