チンギスハン侮辱漫画、在日モンゴル人「下品で低レベル、英雄汚した」
モンゴル人にとって「永遠の神様」
モンゴル人にとってチンギスハンは、単なる過去の英雄ではなく、精神的な支えであり、永遠の神様であり、心の中で永遠に生きている存在だ。内モンゴルのモンゴル人の家には必ずチンギスハンの肖像画が高いところに飾られ、大切に祀られている。私も日本に来るとき、重かったが銅版を持ってきて、今も飾っている。 また、チンギスハンに関連する多くの行事や口承伝説、歌なども残っている。現在も日常生活の物事や議論などでチンギスハンの名言や定めを引用する場面が多く見られる。 私は幼い頃、父にチンギスハンの物語を聞いて育った。父は内モンゴル南部オルドス地方のチンギスハン霊廟を代々祀ってきたタルハッド一族の出身で、熱心なモンゴル語の教育者だった。 小学生になってからは子供向け月刊誌『チョモルリグ』(日本語ではつぼみの意味)に掲載されていた歴史小説『フヘ・ソドル』を基にした漫画を何回も読んでいた。モンゴル人作家インジナシ(1837~1892年)が、チンギスハンから次代オゴディハンまでの歴史を著した内容だった。そのため、チンギスハンはすごい英雄だなあと思うようになった。 だが、モンゴル人にとって英雄であるチンギスハンも、他国の歴史観からは異なる評価を受けることがある。ソビエト時代のモンゴル国では、チンギスハンは侵略者であり残酷な殺略者として批判されていた歴史もあった。その時代のモンゴル人は彼の名を口にすることすら恐れたという。 しかし現在のモンゴル国はもちろん、中国もチンギスハンを英雄として讃えるようになった。特に中国ではチンギスハンは中華民族の誇り高い英雄として、ニュースや雑誌などにもよく取り上げられ、数多くの映画やドラマが製作されている。 2017年にオルドスの裁判所が、チンギスハンの肖像を踏みにじる動画をSNSに流した一人の青年に対し、チンギスハンを侮辱し、多くのモンゴル人の心を傷つけたとして、一年の実刑判決を言い渡したことは記憶に新しい。 私たち内モンゴル自治区のモンゴル人は、チンギスハンはあくまでもモンゴル人であり、そうした中華民族の英雄扱いと異なる考えを持っているのも事実だ。だが、この判決は「中国当局がモンゴル人の感情に配慮した」と好意的に受け止められた。 チンギスハンはモンゴル国や内モンゴルだけではなく、ロシア連邦のブリヤート共和国やカルムイク共和国といった広範囲に散らばっているモンゴル民族でも先祖として崇拝されている。チンギスハンの活動によって、今日のモンゴル人が共通のアイディンティーをもち、一つの民族として、自分たちの文化を育み、歴史の中に生きていると言っても過言でない。 世界史をみても、チンギスハンはおそらく最も重要な人物のひとりだろう。チンギスハンは当時のユーラシアの貿易を促し、文化、宗教など多くの分野において、広範囲にグローバル化を実現し、人類史で重要な貢献をしたことは異論の余地がない事実だ。