アップル、スマートホーム分野でAI攻勢を準備中
米アップルがAI(人工知能)を使ってスマートホーム市場に新たな攻勢をかける準備を進めている、と報じられている。AIは、テクノロジー業界において大きなチャンスをもたらすと期待されている。しかし、同時にテクノロジー大手がどのようにして収益を上げるのかといった根本的な疑問も投げかけている。 ■ 壁掛けディスプレーやセキュリティーカメラ アップルのスマートホームへの取り組みは、2段階で行われる可能性が高い。米ブルームバーグ通信によると、アップルは2025年に、家庭内の様々な機器を制御する「ハブ」として機能する、6インチの壁掛け型AIディスプレーを市場投入するとみられている。 米メディアのザ・バージは、アップルがその翌年に、AI対応の家庭用セキュリティーカメラを生産開始すると報じている。アップル製品の市場動向やサプライチェーン情報に詳しい中国TFインターナショナル証券のミンチー・クオ氏によれば、その初年の販売台数は1000万台と見込まれている。 加えて、アップルには、かつて構想を描いていた自社ブランドのテレビを発売する計画もあるという(ブルームバーグ通信の記事)。 ■ ガジェットで後れを取るアップル ただ、ここで真価が問われるのは、アップルがこれらのガジェットで、どう収益を上げられるかだ。アップルの24年7~9月期における「ウエアラブル、ホームおよびアクセサリー」事業の売上高は前年同期比3%減の90億4200万ドル(約1兆4000億円)で、5四半期連続の減収だった。
この事業の売上高は、アップル全体の1割程度にすぎない。このカテゴリーの製品には、スマートスピーカー「HomePod」や腕時計端末「Apple Watch」、ゴーグル型ヘッドマウントディスプレー(HMD)「Vision Pro」などがあるが、これらはアップルの主力製品とは言えない状況だ。 英フィナンシャル・タイムズ(FT)によれば、アップルは米アマゾン・ドット・コムや米グーグル、米メタといったガジェット製品を多く販売している企業に後れを取っている。こうして数多くの製品が市場に出回る中、アップルは自社製品をどう差異化していくのかと指摘されている。 ■ 絶好調のサービス事業で稼ぐ アップルがガジェットとAIで収益を上げるためには、サービスを拡充する必要があるのかもしれない。というのも同社のサービス事業は絶好調にあるからだ。 アップルのサービス部門は、アプリ・音楽・動画配信などのコンテンツ・サブスクリプションサービスや、広告枠販売、米グーグルからの検索ライセンス収入、クラウドのサブスクサービス「iCloud」、デバイス保証サービス「AppleCare」、決済サービス「Apple Pay」など幅広い事業を展開している。米CNBCによれば、その粗利益率は74%と、アップル全体の46.2%を大きく上回っている。 その24年7~9月期における売上高は、249億7200万ドル(約3兆8600億円)で、過去最高を更新し、8四半期連続で200億ドルを超えた。同社のサービス事業は今や主力のiPhoneに次ぐ事業規模となっている。 こうした中、アップルはAIとサービスをどう融合させ、収益につなげられるのか。米ディープウォーター・アセット・マネジメントのマネージングパートナー、ジーン・マンスター氏は、「アップルは生成AIからどのように収益を上げるのか、今のところ見いだせていない」と指摘する。 一方、FTの記事は、AI関連のプレミアム(有料)サービスを拡充し、サブスクリプションとして販売する方法が考えられると伝えている。現在、無料あるいは有料サービスの一部として提供しているAI関連の機能を、一層便利なものにし、最終的にそれらを切り離して独立したプレミアムサービスとして提供する。アップルのAI分野におけるサービス事業の成功は、それができるかどうかにかかっている、と記事は指摘する。
小久保 重信