救命講習の2日後に訪れた「その時」…路上教習中に指導員を救った横浜市立大生に感謝状
運転免許の路上教習中に心肺停止状態に陥った指導員(63)を救ったとして、愛知県の自動車学校が、横浜市立大1年の大畑颯梧さん(19)に感謝状を贈った。焦りと不安に駆られながら、無我夢中で続けた救命措置。救命講習を受けた2日後に突如訪れた「その時」に運命を痛感し、大畑さんは「講習の重要性を伝えていきたい」と訴える。 【写真で見る】自動車学校を運営する大塩社長(右)から感謝状を受け取った大畑さん=22日、横浜市立大 9月13日午後6時過ぎ、愛知県豊川市。教習車で交差点を右折した時だった。助手席の指導員が肩を上下に揺らして呼吸を荒らげ、ドアにもたれかかって動かなくなった。 「大丈夫ですか」。車内に響くウインカーの音に、大畑さんの声が重なる。少し車を進めて信号で止まり、指導員の手首をつかんだ。脈がなかった。 路上教習は3日目、一般道で駐停車した経験もない。焦りや不安もあったが、やるべきことは分かっていた。道幅の広い道路に停車し、後部座席のバッグから取り出したスマートフォンで119番通報した。 「救急です」「○○という会社が見えます」「70代くらいの男性の意識がなく、受け答えができません」。スマホのスピーカーから聞こえる通信指令員の指示に従い、助手席を倒して心臓マッサージを開始。指令員の「頑張れ」の声に励まされ、救急隊員が駆け付けるまで措置を続けた。 愛知の実家に戻った時は放心状態に。自分の行為が正しかったのか不安でいっぱいになり、涙ぐみながら母親に打ち明けた。食事もままならず、一睡もできない。翌朝、教習所からの電話で一命を取り留めたと知っても素直に喜べず、1週間後に集中治療室(ICU)から脱したと聞いてようやく肩の力が抜けた。 11月22日、横浜市立大で開かれた贈呈式。大畑さんは「必要なときに知識を使えればいいな、という中途半端な気持ち」で救命講習を受けたことを反省し、自身の変化を語った。「自分にできることは講習の大切さや真剣に取り組む大切さを伝えていくこと。少しの勇気が大きな変化をもたらすということも伝えたい」 自動車学校を運営するユタカサービスグループの大塩啓太郎社長も駆け付け、「感謝という言葉では足りない」と何度もねぎらった。当時の車内の様子を記録したドライブレコーダーの映像を見返して涙があふれたといい、「彼が社員の命を守ってくれた」。同社は改めて全社員に応急救護の講習を実施。教習生にも今回の出来事を伝えている。 心臓内科医でもある市立大の石川義弘学長は「心肺蘇生の教育・普及をさらに進める」。大畑さんの勇気は、次の誰かを救う動きにつながっている。(加地 紗弥香)
神奈川新聞社