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札幌・円山動物園 “ちょっと退屈”していたオランウータンと人間との「信頼の物語」

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文春オンライン

注射は“吹き矢”でやるしかなかった

「……あ、怖いなぁ」  鉄柵越しに初めて「レンボー」と対面した獣医師の境秀文(44)が思わず漏らした第一声を、オランウータンを担当して8年目となる李は聞き逃さなかった。 「“ヨシ!”と思いましたね」と李が当時を振り返る。今から4年ほど前のことだ。 「『怖いなぁ』という言葉には、恐怖というよりも、人間とは文化も思考も異なるオランウータンという生き物への畏敬の念が感じられたからです。共感力が並外れているオランウータンは、目の前の人間が自分たちを尊重してくれているのかどうか、すぐわかります。その言葉を聞いて“境さんなら大丈夫だ”と思いました」(同前)  李には、境と挑戦したいことがあった。  きっかけはその2年ほど前、大型類人猿の最新飼育法を研修するために先輩飼育員らとドイツのフランクフルト動物園を訪れたときに遡る。  オスの場合、体重100kg近くになり、握力は約300kgともいわれるオランウータンは、動物園では通常、“猛獣”として扱われている。 「例えば、動物が体調を崩し、血液検査や治療をするにしても、猛獣であれば、吹き矢などを使って麻酔をしなければ対処ができないことが多い。しかし麻酔は、当然リスクも大きい。もう少し自然なやり方はないか、と思っていました」(同前)  そのヒントがドイツの動物園にあった。 「ドイツでは、例えばスタッフがオランウータンに“おしっこ”の合図をすると、ちゃんとおしっこするんですね。“ハズバンダリートレーニング(受診動作訓練)”というんですが、飼育動物の自発的な協力により、検査や、治療、健康管理ができるようにトレーニングしていたんです。その根本にあるのは、飼育作業全般を通じたコミュニケーションによる関係性の構築で、実際に目で見て、我々にもできるはずだ、と」(同前)  李より前に長年オランウータンを担当していた先輩飼育員は、「李さん、帰ったら思ったようにやってみていいよ。何かアドバイスがあればするから」と言ってくれた。  李とレンボーのトレーニングの日々が始まった。

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