根深い真相。なぜレスリング協会で再びパワハラ問題が起きたのか?
あまりに常識からずれている。コンプライアンス意識を高めることが求められている時期に、協会と社会の接点になるはずの広報委員の間で起きてよい問題ではない。そう判断した周囲の働きかけによって、なんとか問題を解決させようと話し合いが複数回、もたれた。ところが元広報委員の男性は、話し合いの冒頭で一言「悪かった」と口にすると、すぐに「だが、問題があるから厳しいメールを送ったんだ」とメール内容を正当化する言説を長々と語ったあげく、「パワハラと認定されたわけではない」と宣言したという。 被害者側は、自分に降りかかったパワハラ問題をきっかけとして、日本レスリング協会の広報が健全に運営される仕組みが新たに構築されることを望んでいた。 ところが話し合いでは、あくまで個人と個人の揉め事に内容が矮小化されてしまう。それどころか、パワハラであることの認識も共有出来ない。身動きがとれなくなったところ、周囲の薦めもあって、10月に設置された内部通報窓口を活用することにしたのだった。 その後、通報を取り下げる働きかけを一部から受けたが、弁護士などによる第三者委員会が結成され、調査が進められた。公益財団法人として 襟を正した、というポーズのためだけに設置された疑いももたれていた内部通報窓口が、実際に機能したことは評価に値するだろう。ところが、事態の深刻さを理解していないからだろう。その後の対応が不透明なことだらけだった。 今回の件でパワハラは認定されたが、元広報委員の男性は懲戒などの処分を受けていない。もし処分があったとしたら5月7日の臨時理事会で決定されるはずだったのが、それより以前に広報委員を辞任したため、もう外部の人だから処分の対象外だというのだ。しかし、受託業者として現在も公式ホームページの運営には引き続き関わっており、レスリング関係者ではあり続けている。ちなみに、公式ホームページでは、今回の内部通報窓口を使用した第一号事例であるパワハラについてのニュースは原稿執筆時点で掲載されていない。 そして、今回のパワハラについて、なぜこのような歪みを生み出してしまったのかという考察や、対策がまったく表に出てこない。内部通報窓口に連絡して、調査が始まるのを待ち、不安の中で調査に協力していた被害者には、週刊誌編集部からの接触もあったという。だが、協会が広報運営の改善に冷静な状態で着手してほしいと願い、自分のパワハラについては意図的に口を閉ざし続けた。ところが、調査が終わり報告書が作成され、臨時理事会で認定もされたが、被害者には、パワハラが認定された事務的な連絡があったのみだ。報告書は手元にないし、これから届けますという知らせもないという。 伊調馨選手のような公人が被害者ではないため、このパワハラについて大きく続報が続くことはないかもしれない。だが、この件にどう向き合っていくのかが、今後、日本レスリング協会のガバナンスが正常に機能して組織として立ち直れるかどうかを左右することになるのではないか。 (文責・横森綾/フリーライター)