仙女参戦の謎の外国人? 日本人の祖父を持つスパイク・ニシムラとは?
「私に日本人の血が流れていることはわかっています。だからいつか日本には行きたいと思っていました」
初登場のスターダム勢に関しては、初来日のニシムラの日本デビュー戦をつとめた梨杏には大きなプレッシャーのかかるシチュエーションで、ゆづきを破ったさくらはモンスター退治のような闘いの末に勝利をゲットした。両者ともホームリングでは味わえないような感覚を体感したはずである。 なかでもニシムラの登場は、今回のなかでもとりわけユニークな人選だった。「スパイク・ニシムラって誰?」「どこで試合をしているの?」と思ったファンが大半だろう。どこかローカルインディーの選手かと思いきや、そうではない。これが初来日で、日本人選手との対戦も初めて。母国アメリカでもまだまだ無名の若手である。 そこで今回、ニシムラ本人にいろいろ聞いてみた。1999年生まれの彼女は、アメリカ・ロードアイランド州プロビデンス出身。ニシムラ性を名乗っているのは、祖父が日本人だからとのこと。来日に合わせてリングネームをニシムラにしたのではなく、基本的にはスパイク・ニシムラのリングネームでもリングに上がっている。しかし日本語はまだあまりわからないらしく、アメリカに移り住んできた祖父の方針からそうなったらしい。 「おじいちゃんに会ったことはあります。でも、頻繁に会っているわけではありません。囲碁や社交ダンスが好きでしたね。おじいちゃんには、アメリカの文化や風習を家族に吸収し同化してほしいという希望があり、父に日本語で接することを避け、日本のこともほとんど話さなかったといいます。父は日本語が話せないし、私も日本のことはよくわからないんですよ。でも、私に日本人の血が流れていることはわかっています。だからいつか日本には行きたいと思っていました。それがプロレスで実現するなんて、少し前までは予想もできませんでしたね。おじいちゃんは厳しい人で、孫たちには、とくに学問で、成功してほしいと願っているんです。だから、私がプロレスラーになったことを認めてくれていないんじゃないかな。でも、大学の学位を取っているので、大丈夫かなと思います(笑)」 プロレスに魅せられたのは、映像を通じて。しかし、よくあるWWEではなく、メキシコAAAがロサンゼルスに進出した番組としての別ブランド「ルチャ・アンダーグラウンド」だった。 プロレスじたいは知ってはいたが、ハイスクール時代に偶然見かけた「ルチャ・アンダーグラウンド」でファンになった。すると格闘技の道場にも通うようになり、見るプロレスよりも格闘技を習う方に意識が傾いていった。が、世界がコロナ禍に見舞われ、道場に行くことができなくなってしまう。 「パンデミックで道場が休止になってしまいました。練習ができない間、逆にプロレスを見るようになりましたね。アメリカのインディーや日本の新日本プロレスまで、プロレス熱が再燃したって感じです。コロナ禍が落ち着いても道場は再開されませんでした。そのとき、自分は(格闘家ではなく)プロレスラーをめざそうと思ったんです。そこでニューイングランドプロのレスリングアカデミーに入門し、チェイス・デル・モンテ、マックス・スマッシュマスターらの指導を受けてデビューしました」 初リングは2023年11月24日、マサチューセッツ州でのシングルマッチ。相手は彼女の年齢と同じくらいのキャリアを持つ、ベテランのアリエルだった。その後、数々の団体でリングに上がり、スパイク、スパイク・シコースキー、スパイク・ニシムラなどを名乗った。そして30試合ほど経験し、仙女への初来日となったのである。 「日本のプロレスについては、90年代あたりの女子プロレスを少し見ました。あの時代のプロレスが好きで、私もあこがれます。当時のレスラーの技術、タフネスぶりはすごいと思います。私も機会があれば、ああいった試合をやりたいと考えていました。が、日本に行くとしてもまだ先のことで、いつかは実現させたいと思う程度。長い目で見ての夢になっていたんです。しかし今回、里村(明衣子)さんに声をかけられて来日が決まりました。最初はとても信じられませんでしたね。私のポテンシャルを買っていただいた里村さんには、ものすごく感謝しています。また、仙女で試合、練習をさせていただく機会もいただけて、本当にうれしいですね」 キャリア10カ月で、アメリカ以外のリングに上がるのも初めて。日本という国に触れるのも事実上初めてだった、これを機に日本語を学び、日本のプロレスも吸収したいと考えている。 「日本では仙台と東京を少し観光して、鉄道のスタンプを集めましたよ。でも私は少しワーカホリックなところがあるので、休みよりも練習したいですね(笑)」 「タフでクールで、見る人の記憶に残るレスラーになりたい」と言うニシムラ。そしてもうひとつ、「弟に尊敬されるレスラーになりたい」とも。アメリカからやってきた日本の血が流れる女子プロレスラー。スパイク・ニシムラの名前をおぼえておいて、損はないだろう。 インタビュアー:新井宏
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