「海を嫌いになることなんてできない」母になった“つなみの子” 10年後の決断 #知り続ける
人に生かされることを知った経験「よい母親になれる」
震災という非常事態の中で育った子どもたちが、時を経て大人になり、親になる。親から守られる存在だった女の子が、いつしか自分の子を守る母という存在になる。
震災当時の親世代から見ればどう見えるのか。東日本大震災の後、6人の子どもを育ててきた宮城県石巻市の鈴木美香さん(55)は、被災地で育った母親だから期待できることはあると話す。鈴木さんは作文集の関係で日向子さんや真知瑠さんを知る人でもある。 「あのとき、東北では多くの人が瓦礫となった街やあちこちで遺体を見て『もう終わった』という絶望感を覚えた。何カ月も避難所にいて、人に助けられ、生かされることを知った。そういう経験を持った子が、いま親になっている。それは、生き抜いていける力をもった子が親になったということだと思うの。日向子ちゃんも真知瑠ちゃんも、苦しい体験をしたからこそ、よい母親になれるんじゃないかと思いますよ」 親になった「つなみ」の子たちは、どんな子どもたちを育てていくのか。未来につながる復興が東北で続いている。
-------- 森健(もり・けん) ジャーナリスト。1968年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、総合誌の専属記者などを経て独立。『「つなみ」の子どもたち』で2012年に第43回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『小倉昌男 祈りと経営』で2015年に第22回小学館ノンフィクション大賞、2017年に第48回大宅壮一ノンフィクション賞、ビジネス書大賞2017審査員特別賞受賞。2023年、「安倍元首相暗殺と統一教会」で第84回文藝春秋読者賞受賞。