心不全患者が「腎臓病」や「うつ」を発症しやすい恐い理由【専門医が解説】
「心不全」とは心機能が低下した状態をさす病気です。心不全を引き起こす原因は多岐にわたり、もはや「あらゆる病気が心不全につながっている」といっても過言ではありません。一方で、心不全が別の病気を引き起こす場合もあるのです。ここでは、心不全が「心臓以外の内臓」や「心」にもたらすリスクを見ていきましょう。“心疾患・心臓リハビリ”の専門医・大堀克己医師が解説します。
【関連記事】心不全は「がんより5年生存率が低い」…早期発見のための「セルフチェック」
心不全によって「心臓以外の臓器」まで機能が低下
■心不全患者は、とりわけ「腎臓」の障害を起こす割合が多い 心臓のポンプ機能が衰えると血液を送り出すことができなくなり、全身で必要とされる酸素や栄養分を供給することができなくなります。その結果、疲労や倦怠感を感じたり筋力が衰えたりするほか、さまざまな内臓が機能不全を起こします。 とりわけ注意したいのが腎臓です。 腎臓の重要な役割は、尿を作ることです。心臓から送り出された血液は、腎動脈を通って1分間に1000ミリリットル程度、腎臓へ流れ込みます。腎臓に送られた血液は、腎臓の「糸球体」と呼ばれる部位でろ過され、不要なものと必要なものが選別されます。必要なものは再び血液の中に取り込まれ、不要なものは原尿(尿のもと)となります。 腎臓でろ過される原尿は1日あたり150リットルといわれています。これだけの量を絶えずろ過し、老廃物を除去しているのですから、腎臓の負担は相当なものです。 しかし、心不全によって心臓のポンプ機能が衰えると、当然、腎臓にも血液が届かなくなります。腎臓はいわば血管の塊のような臓器ですから、そこへ血液が届かないことは大変な問題です。そのため、心不全の患者は腎臓に障害を起こすことが多く、心不全の患者の3人のうち1人に中等度以上の腎機能の低下が起こることが分かっています。さらに、急性心不全で入院、治療を受けた患者の2~3割が急性腎障害を起こしていることも明らかになっています。 反対に、腎臓に障害のある人が心不全を起こすリスクも、健康な人に比べて非常に高いことが分かっています。腎臓の働きが衰えて、尿のもとが作れなくなると、体内の水分量が増えてしまいます。水分量が増えれば血液量も増えることになりますから、心臓に負担が掛かり心不全を起こしやすくなるのです。 このように、心臓と腎臓は非常に深い関わりをもっています。どちらか一方が悪くなると、もう一方にも影響を及ぼすという両者の関係性を「心腎連関(症候群)」と呼んでいます。 ■成人の約8人に1人…新たな国民病、「慢性腎臓病(CKD)」 現在、日本では新たな国民病として、慢性腎臓病(CKD)の存在が注目されています。慢性腎臓病とは、腎臓の働き(GFR)が健康な人の60%以下に低下するか、あるいはタンパク尿が出るといった腎臓の異常が続く状態のことをいいます。 新しい国民病として注目を集める病気ですので、患者数は年々増加しており、現在、日本には約1330万人の患者がいるといわれています。この数字は成人の約8人に1人という数字ですから、すでに国民病といってもよいレベルです。 慢性腎臓病になると夜間頻尿やむくみ、貧血、倦怠感、息切れなどの症状が現れ、さらに悪化すると末期腎不全となり、人工透析や腎移植を受けなければならなくなってしまいます。また、心臓病や脳卒中などの心血管疾患になりやすいことも分かっており、そうなると命を縮める大きなリスクになり兼ねません。 慢性腎臓病の原因は加齢のほか、糖尿病や高血圧、喫煙、メタボリックシンドロームなどであり、生活習慣を気遣えばある程度防げるものが多いのです。主体的に生活習慣を改善しながらいち早く病気の兆候に気づき、重篤な疾患を予防する――。これこそ今後、超高齢社会において健康を守るための、重要な鍵になるのです。