不妊治療のやめ方が、その後の人生に影響する…。たくさんの人たちの話に耳を傾けて思うこと
43歳の誕生日を迎えた朝、相変わらず未婚である私は子どもを持つことを諦めた。 「子どものいない人生を送るんだ、私は」 そう呟いて、その言葉の重さに自分で驚いた。 それからしばらくして、私は「マダネ プロジェクト」の存在を知った。 様々な事情から、未婚もしくは結婚していても子どものいない女性。そんな「子どものいない人生」を送ることになった人たちが集まって、それぞれの思いを語り合ったり、耳を傾けたりする会などを開催しているのだという。 その主宰者が、くどうみやこさんだ。 自身も子どもがいない人生を送っている。 子どもを持たない覚悟を決めた私は、どうしてもくどうさんに話をきいてみたくなった。 前編では、くどうさん自身の「子どものいない人生」について、今回の後編ではくどうさんがこれまで「マダネ プロジェクト」に集う女性たちの不安や葛藤に耳をかたむけてきて感じること、考えることを聞いた。 【取材・文:榊原すずみ/ハフポスト日本版】
――病気で子どもを産めないとわかったことが「マダネプロジェクト」の立ち上げのきっかけとなったんですか? そうですね。もう子どもがいない人生が決まったのだから前向きに歩んでいきたいと思ったとき、同じ立場の人たちがどんな気持ちでいるのか知りたくなったんです。当時は、子どもがいない人のための本や、特集が組まれている雑誌などもあまりありませんでした。私は自分が子どものいない人生を送ることになるなんて思っていなかったので、子どもを持たないまま年を重ねていくイメージが持てなかったし、まわりにロールモデルもいませんでした。ないんだったら、自分で作ればいいと思ってはじめたのが「マダネ プロジェクト」です。 子どものいないことは、とても繊細な話題だからこそ、まわりにも気軽に聞けないでしょう? ――プロジェクトをはじめて、同じ立場の人たちの話を聞いてみてどうでしたか? 私は、プロジェクトを始めた頃には、だいぶ前向きな気持ちになれていたけれど、参加者皆さんの思いを1人ずつ聞いた時に、想像を超えた苦しみを抱えている人がいるんだと気付かされました。 例えば、夜にしか外出できない、という人。昼間の街中はベビーカーを押す人が多いから歩くことができないって。それから、夫婦ふたりで犬を飼っていることを周囲に話せないという人もいました。「子どもの代わりに犬をかわいがっている」と思われてしまうのが嫌だからというのが、その理由。みなさん、涙をこぼしながらお話になるんですよ。 様々な事情で子どもを持てなかった人たちの苦しみと本音を聞き、同じいない人同士でも、知らない思いがあるんだなと知り、このプロジェクトの意味みたいなものが見つかったように思っています。 ――「マダネプロジェクト」には、夫婦だけではなくて、私のような未婚で子どもがいない人も参加できるのですか? もちろん、参加できますよ。 参加条件は、「子どもがいない女性」ということだけですから、結婚していても、していなくても関係ありません。みんなそれぞれ、自分の人生について見つめ直したり、本音を交わしあったり、しています。 会の告知などはFacebookでしていて、すぐに埋まってしまうんですが、ぜひきてみてください。 ――私は以前、“不妊治療のやめ時”について取材をしたことがありまして、それ以来、「子どものいない人生」の行方に大きな影響を与えるのが、不妊治療なのではないかと感じているのですが…。 そうですね。不妊治療をした経験があるか、ないか、あるとしたら、どのくらいされたかによって、「子どものいない人生を送る」ことへの気持ちの切り替えにかかる時間や、思いの深さが違うというのは実感しますね。 子どもが欲しい気持ちが大きいからこそ、お金や時間、さまざまなものを使って治療という大きな一歩を踏み出すわけですから、なかなか切り替えが難しいのだろうなと思います。 ――不妊治療はやめ時が本当に難しいといいますよね。以前の取材では、10年を超えて治療をなさっている方もいらっしゃいました。 欲しい気持ちか強ければ強いほど、治療にかける時間は長くなる方がおおいですね。長ければ長くなるほど、それだけお金と時間を費やしているということになるので、「次でやめよう」と思うのだけれど、結果が出なかったら「じゃあ、あともう1回だけ」となってしまうという方がどれだけたくさんいることか。そうやって、少しずつ延びていくんですよね。だって、「治療をやめる」ことは「子どものいない人生が確定する」ということだから。 私の場合は、自分の意思ではなく、病気で確定してしまったわけだけれど、不妊治療の場合は「ここでやめる」という夫婦の2人の意思が必要になる。妻と夫で温度差があったり、やめようと決心するきっかけやタイミングが異なったりすることもあるので、本当に難しいですよね。 ただ、皆さんの話を聞いていて思うのは、「自分が納得するまで治療できた方が、その後の気持ちの切り替え」が、もちろん簡単ではないけれど、スムーズな印象があります。「できることはやった」と、自分の中で気持ちが消化できるところまで頑張った方は、現実を受け入れる心持ちになるのが早いというか…。 人によっては、経済的な理由で途中で治療を断念せざるを得なかったり、体外受精まででやめたけれど、顕微受精まですれば子どもができていたかもしれないという思いをずっと抱え続けていたり…、どこまでいけば納得できるのかというのはとても難しい問題ではあるのだけれど、ある程度納得いくところまで、できることをなさった方は、「これ以上は無理だったんだよ」とその後の人生を受け止めている気がしますね。 だから、治療を始める前に、自分が納得できるポイントを先にきめておくことも大事なのではないかなと、みなさんとよくお話ししています。そうでないと暗いトンネルから抜け出せなくなってしまうから。