小室眞子さんの例をもとに、「心の健康」を得るために知っておきたい「マイクロアグレッション」という言葉
万人に降りかかったコロナ禍という状況を経て、メンタルヘルスへの取り組みが改めて問われている。医療の現場で注目されている「マイクロアグレッション」というキーワードについて、心の健康の捉え方を米国在住の小児精神科医、ハーバード大学医学部助教授、マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長の内田舞氏が解説。 【写真】メンタルヘルスの重要性に声を上げた、セレブやスポーツ選手たち
昨年結婚された小室眞子さんの「複雑性PTSD(心的外傷後ストレス障害)」の発表に対する批判について、メンタルに関係する問題に対する日本の報道、世論の厳しさ、アメリカと違うリアクションに驚いたという。 「あれだけ注目され誹謗中傷が集まれば、不安や落ち込みがあって当然。でも心を健やかに保ち、幸せになる権利は誰にでもある。心の健康もその人の権利。対処法は自分で選んでいいのです。アメリカではブラック・ライブズ・マター(BLM)以降、『Microaggression(マイクロアグレッション)』という言葉がよく使われるようになっています。 この言葉自体は1970年にアメリカの精神科医チェスター・ピアスが提言したもので、『政治的・文化的に疎外されている集団に対して、何げなく表れる偏見や差別に基づく見下しや侮辱、否定的な態度のこと』。こう書かれてもイメージしにくいかもしれませんが、例えば学術的な功績をたたえる際に『黒人っぽくないよね』という言葉もそれにあたります。そこには“まさか黒人がこんな賞を取るとは思わなかった”という意味が含まれるからです。 また人種問題だけでなく、『女性なのに』『母親なのに』『うつなのに』など、無意識のバイアスや侮辱、見下しは日本社会にも随所で見られますよね。しかもマイクロアグレッションがやっかいなのは、発した側が無自覚で、受けた側だけが傷ついてしまうこと。そして傷ついたことを明かすと『繊細すぎる』『気にしすぎる』『心が弱い』と言われ、偏見を受けた側が責められてしまう構図があることです。メンタルヘルスの理解不足自体にマイクロアグレッションが関わっているし、また、マイクロアグレッションによってメンタルヘルスの危機にさらされることもあると思います」 ※BLMとは、アフリカ系アメリカ人のコミュニティに端を発した、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える国際的な積極行動主義の運動のこと。
Text: Manabi Ito From Harper's BAZAAR July/August 2022