これからは内部通報を促す企業が力をつける vol.3
これからは内部通報を促す企業が力をつける vol.3 柿崎 環(明治大学 法学部 教授) 2020年6月8日、「公益通報者保護法」の改正法が成立しました。これにより、企業などの不正について告発がしやすくなり、コンプライアンス経営が進むことが期待されますが、改正に向けた審議会である「公益通報者保護専門調査会」の副座長を務めた本学の柿崎教授は、改正の意図は、企業の不祥事防止だけにとどまらないと言います。 ◇内部通報によって向上するリスク・マネジメント力 また、従来、通報者に対して、通報により発生した損害について損害賠償の訴えを起こす企業がありましたが、改正法では、保護を受ける公益通報を行った通報者には企業から損害賠償請求を起こせないことが明文化されました。 今回の法改正によって、公益通報がより容易になり、通報者の保護はより高まります。そうなると、企業は、内部通報を自社に対する裏切り行為のように見なしがちでしたが、そのような意識は変えなくてはならなくなると思います。 つまり、内部通報であれば、外部に通報される前に、不正や違法行為を、徴候が感じられるような早い段階のうちに自社内で把握し、対処することもできるようになるからです。 さらに、内部通報体制の構築は、現場からトップへの迅速な情報伝達体制に繋がります。それによって、不正の情報ばかりでなく、現場が感じる違和感や変化をトップがいち早く把握できるようになるでしょう。 それは、グローバリゼーションの進化や、最近のコロナ禍でも、刻々と変化する企業環境に対して、より速く、より適切な判断を行っていくうえで、非常に重要であり、経営にとっても貴重な体制の整備になります。 すなわち、今回の法改正は、コンプライアンス経営の在り方を問うものと言えます。 それは、単なるリスク回避のような考え方だけではなく、プラス、マイナス両方の変化の兆しに迅速に対応する企業経営の在り方であり、それが、今後の企業に求められる本当のリスク・マネジメント力であると考えます。 最後に、従業員の方々に。 これは変だと感じても、周りのみんなもやっているとか、先輩からこのようにやるように代々伝えられてきたことだからと、なにも考えずにただ従っていては、むしろ、それが会社に対する裏切りであるという意識改革をしてほしいと思います。 あなたの疑問を通報することが、現場力を高め、それが企業力の向上に繋がっていくという意識をもつことが大切です。今回の改正法は、そんな意識改革を支援する第一歩になるものと思っています。 ※取材日:2020年6月
柿崎 環(明治大学 法学部 教授)