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『3』に垣間見える悪玉っぷりに思うキリンジのロックバンドとしての肝

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OKMusic

ロックバンドらしい多彩さ

アルバム『3』は全13曲入り。それだけに…と言っていいのか、その内容は実にバラエティー豊かなのだ。キリンジはバンドであるわけで、それも当たり前と言えば当たり前のことなのだが、もし「エイリアンズ」から『3』に入っていたとすると、(少なくとも当時は)若干戸惑うリスナーがいた気もする。バンドを公言していたとは言え、この頃のキリンジのメンバーは堀込高樹、堀込泰行だけである。しかも、当時、制作された「エイリアンズ」のPVに映るはギターを弾きながら歌うふたりの姿のみで構成されている。ゆずのメジャー進出が「エイリアンズ」発売の2年前の1998年で、この時期、二人組のフォークグループがわりとデビューしていたので、あのPVを見た人の中でキリンジ=フォークデュオと誤解した人がいたとしてもおかしくない作りである。これも意図的というか、若干アイロニカルな意識もあったのかと思うのだが──話がズレたので軌道修正すると、アルバム『3』は「エイリアンズ」が最も地味なくらいで、全体的には躍動感あふれるバンドサウンドを聴くことができる。以下、ザっと見ていこう。 M1「グッデイ・グッバイ」はその年の4月にリリースされた4thシングル。Chicagoの「Saturday in the Park」を彷彿させる軽快な鍵盤とブラスが全体を引っ張り、後半に進むに従ってベースがうねりを増してグルーブ感を醸し出していく様子がとてもいい。お洒落感だけでなく、硬派なバンド像を伺わせるに十分な楽曲である。M2「イカロスの末裔」はシングル「エイリアンズ」のカップリング曲でもあったソウルナンバー。こちらもブラスがあしらわれており、主旋律からするとポップというよりもスウィートと言ったほうがぴったり来るような印象だ。元ネタは“サルソウル”だという。“サルソウル”とは1974年にニューヨークで設立されたレーベルの名称。その名の通り、サルサとソウルを融合させたディスコナンバーを輩出してきた(ちなみに電気グルーヴの「Shangri-La」のサンプリング元として知られるSilvettiの「Spring Rain」はその“サルソウル”からのリリースである)。キリンジにダンスミュージックのイメージを持つ人は少ないのではないかと思うが、M2「イカロスの末裔」は彼らが意欲的にさまざまな要素も取り入れてことを証明する興味深いダンスチューンではあろう。3rdシングルでもあったM3「アルカディア」はミドルテンポでメロディーはマイナー調だが、ざらついたギターの響きが渋くてカッコ良い。歌詞にある通り、まさにブルースの面持ちだ。アウトロがシングル曲にしてはやや長尺な印象はあるが(約5分半の全タイム中、1分半がアウトロに当てられている)、2本のギターとリズム隊が重なり合っていく様子がスリリングで、ここは圧倒的に聴きどころだし、バンド側にしてみれば聴かせどころ、見せどころとしていることは間違いない。 続くM4「車と女」はチャカポコなギターカッティングが冴えわたるファンキーチューン。楽曲タイトルに呼応してか加速していくような疾走感にあふれ、バンドアンサンブルがこれまたグイグイと極めてグルービーに迫る。これまた硬派で、ロックバンド特有の荒々しさをのぞかせる。一方、“ヒール”と読むM5「悪玉」は、そのタイトルからは想像できない軽快さ。メロディーもサウンドもフレンチポップスのような、これまたスウィートな感じで、そこに《“破壊の神シヴァよ、血の雨を降らせ給うれ!”》なんて歌詞が乗っているのは、対位法な発想から生まれたものかもしれないが、それを通り越してほとんどシュールだ。 アルバム『3』はそこからM6「エイリアンズ」へと連なっていく。アナログ盤ではM6「エイリアンズ」でA面が終了するわけだが、ザっと振り返った限りでも似たような楽曲が存在しないことはよく分かるだろうし、抑制の効いた、落ち着いたサウンドはむしろ少ないことも分かってもらえると思う。 M7以降、アナログ盤でのB面もそうで、以下は先ほど以上にざっくりと説明すると──。サイケデリックなインストのM7「Shurrasco ver.3」。ジャジーでブルージーなM8「むすんでひらいて」。“遅れてきた渋谷系”の形容に相応しいポップチューンM9「君の胸に抱かれたい」は5thシングル。M10「あの世で罰を受けるほど」はオールドスタイルなR&R。兄・高樹がメインヴォーカルを務めているM11「メスとコスメ」は不穏なファンクと言ったらいいだろうか。M12「サイレンの歌」はM13「千年紀末に降る雪は」はともにThe Beatlesが色濃く感じられるナンバー(前者は後期、後者は中期だろうか)。ざっくりと言ったものの、それにしてもほどがあるざっくりさであるが、大きな間違いはないと思う。その躍動感あるサウンドはバンド以外の何物でもないし、その多彩さは特筆すべきものである。キリンジは形態としては二人組ではあるものの、まごうことなきロックバンドなのである。

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