フィギュアGPファイナルでネイサン・チェンとの一騎討ちに挑む羽生結弦に死角はあるのか?
そしてチェンが羽生を圧倒するのが、得意とする4回転ジャンプだ。羽生は、プログラムに4回転ループ、4回転サルコー、4回転トゥループの3種類を入れているが、対してチェンは4回転ルッツ、4回転フリップ、4回転サルコー、4回転トゥループの4種類を組み込んでいる。 その4回転ジャンプの差は、当然、基礎点に反映されてくる。羽生の今季ベストが、SPで46.37(NHK杯)だったが、チェンは47.00(フランス杯)。もしチェンがベストに仕上げてくればフリーも含めて2、3点の差が基礎点でつけられると考えられている。 ただ今季はチェンの調子がまだ上がってきていないことも手伝ってフリーでは、チェンの今季ベストが90.45(フランス杯)なのに対して、羽生は92.98(スケートカナダ)で上回っている。 さらに、この基礎点にGOEが加わると、羽生は技術点でもチェンに十分に対抗できる。スケートカナダのSPではトリプルアクセルのGOEで満点の4.00が加点され、8.00の基礎点に加え、このトリプルアクセルだけで12.00を稼いだのである。 いずれにしろSP3本、フリー7本のジャンプをミスした方が負ける。より完成度の高い方が勝利を手にする。もし両者が共にノーミスで滑れば、羽生に軍配が上がるだろう。 羽生は、技術点のハンデを埋めるため、現地の公式練習で2017年のロシア杯以来封印してきた4回転ルッツを復活させて着氷に成功したという。だが、NHK杯から2週間しかなく、準備期間としては短い。4回転ルッツの投入は、失敗した後の演技への影響を考えると、諸刃の剣。むしろ、その投入は危険となる。ノーミスで滑ればチェンに勝てる確率が高いのだから、ここで4回転ルッツの封印を解く必要性は低い。おそらく使わないだろう。 だが、チェンにはフランス杯から1か月もの準備期間がある。打倒・羽生に新しいプログラムを用意してくる可能性も捨てきれない。今回は、ここまでスケートアメリカで299.09、フランス杯で297.16と、300点越えはなくプログラム内容もジャンプの状態を見ながら変更してきた。スケートアメリカのフリーの冒頭のジャンプは、4回転ではなく3回転+3回転にしていた。苦手だったトリプルアクセルは、改善しつつあるが、もしフリーに入れていたトリプルアクセルを4回転ループにでも変えてくれば基礎点は2.50アップすることになる。試合間隔の有利さをチェンがどう生かすかも勝敗を分けるポイントになるのかもしれない。 羽生にとって死角があるとすれば、2週間の試合間隔でNHK杯の疲労が抜けているのか、という点と、ミスにつながる「力み」などの内的要素だろう。自己との内なる勝負。そこを完璧にコントロールできれば、男女通じて誰も成し遂げていないGPファイナル5度Vの偉業が見えてくる。