ステアリングレースを取り外す際はベアリングセパレーターを流用しよう
タガネで叩くとインナーレースがステムシャフトに食い込むこともある
ステアリングステムベアリングは、フレームのヘッドパイプに圧入されたアウターレースとロアブラケットのステムシャフトのインナーレース、その間の硬球またはテーパーローラーで構成されています。 インナーレースのうちステムシャフト下部のレースは圧入されており、簡単には外れません。ステムシャフトが長いため、爪タイプの一般的なギヤプーラーが届かないのです。 そこで昔から使われてきたのが、タガネでレースの外周を叩く方法です。一カ所に集中するとレースが傾いてステムシャフトに食い込むので、外周に沿って少しずつ位置を変えながら、傾かないように叩くのが重要なコツです。 ところがロアブラケットが邪魔でタガネが届かなかったり、叩きやすい場所を偏って叩いてしまったりして、ステムシャフトにレースが食い込むトラブルがしばしば発生します。 食い込みが軽度なら上から叩き戻して仕切り直すことができますが、深い傷が入ってしまうと面倒です。レースが食い込むことで僅かながらでもシャフトが細くなり、レースの圧入が甘くなってしまいます。また、新たに別の場所を叩いても、一度傷ついた部分にレースが入り込んでしまい、さらに深い傷が付いてしまうこともあります。 ベアリングセパレーターはセパレーターブレードがレースの全周に当たるため傾きづらく、センターボルトの支店となるH型ホルダーとセパレーターブレードの距離が離れていても、連結できるロッドによって対応できます。
ロッドを延長してストロークの長いステムシャフトをクリア
ベアリングセパレーターはさまざまな工具メーカーから発売されており、セット内容の異入り組みはまちまちです。ここで紹介するアストロプロダクツのセット工具の場合、最大200mmのストロークを稼ぐことができ、長いステムシャフトも余裕でクリアできます。 また2本のボルトとナットで隙間が狭まるセパレーターブレードは、インナーレースとロアブラケットの僅かな隙間に食い込み、機種によってはナットを締める際のくさび効果によって、センターボルトを使うまでもなくレースが抜けることも少なくありません。いくら慎重に叩いても、タガネで作業する以上は一度に一点しか力が加わらないのに対して、セパレーターブレードは外周に均等に食い込んでいく効果を実感できます。 セパレーターブレードだけでは抜けない場合も、2本のロッドでH型ホルダーを支えてステムシャフト頂部をセンターボルトで押せば、間違いなくレースを抜き取ることができます。 ここではボールベアリングタイプのレースで実践しましたが、テーパーローラーベアリングにも使えます。テーパーローラーを保持するリテーナーが邪魔でセパレーターブレードが引っかけづらい場合は、グラインダーで切断してローラーを取り去り、セパレーターブレードでインナーレースを直接挟み込めば、センターボルトで引き抜くことができます。 ボールベアリングタイプに比べてテーパーローラーベアリングのインナーレースには厚みがあり、ステムシャフトとのはめ合いも深くなります。そのため、タガネで叩いた際に傾きやすく、一度傾くと食い込みが深くなりがちです。こうした特徴があるため、できるだけ初めからベアリングセパレーターを利用した方が安全で確実です。 ただ、便利なベアリングセパレーターも万能ではありません。ロアブラケット上面にあるハンドルストッパーの位置や形状によっては、セパレーターブレードが干渉してインナーレースに掛からない場合もあります。これは実際にセパレーターブレードを当てて確認してみるしかありません。 そうした注意点はありますが、インナーレースの裏側にぴったりはまってセンターボルトでスムーズに抜き取ることができると高い満足度と達成感を得られます。圧入された部品を取り外すにはある程度の力が必要なのは間違いありませんが、無駄なトラブルや出費を未然に防ぐためにも、あらかじめ役立つ工具を準備しておくことが重要です。 【POINT】 ▶ポイント1・ステアリングステムシャフトに圧入されたベアリングのインナーレースを抜き取る際は、シャフトを傷つけやすいので注意が必要 ▶ポイント2・ベアリングセパレーター軸に圧入されたベアリングやギヤを取り外すギヤプーラーの一種で、セパレーターブレードで挟み込むのが特徴 ▶ポイント3・セパレーターブレードをインナーレースの裏側に食い込ませて、センターボルトでステムシャフトの頂部を押すことで傾けることなくインナーレースを取り外すことができる
栗田晃