名スカウトが金足農エース吉田輝星を「松坂大輔級の直球の質」と高評価
この日は、6回に守備でもファインプレーを演じた。勝ち越しを許して、なお一死一塁と続くピンチに有馬諒の送りバントがポーンと一塁線上に上がる小フライになると、冷静に走者のポジションを確認してから、わざと、ダイレクトで捕球せずに、バウンドさせてから素手でつかんで二塁へ送球。ゲッツーを成立させたのである。素晴らしい“野球脳“。プロで必要になってくる投げること以外の技術の基礎レベルも非常に高い。 「プロでも早い段階でローテーションに入ることを想定できそうなピッチャーだ。牽制や守備などプロで必要な技術もあるし、高卒でも、意外と出てくるのが早い即戦力だと思う。1年目の夏くらいからは、出てくるのではないか。作新学院からドラフト1位で入った西武の今井達也が、2年目に出てきているが、彼よりは早いと思う。そう考えると3球団くらいが1位で競合してもおかしくない」 片岡さんは、1位競合が考えられるほどの素材だと見ている。 ただ「総合力では松坂に劣る」と判断した点は制球力だ。 「1回戦からすべての投球を見させてもらっているが、コントロールは決していいとは言えない。いらないボール球が多い。コントロールだけはセンス。教えられるものではない、という難しさを私はスカウト時代に嫌と言うほど経験している。おそらくプロでは、三振を量産している高めのボール気味のストレートは振ってくれない。そこはプロに入ってからの課題であり、彼のまだまだ楽しみな伸び幅ともいえる」 この日、与えた四球はひとつだけだったが、球数は140球で、4試合の合計は、615球となった。1試合平均で154球は多い。それだけ無駄なボール球を投げている証拠である。 19日に1日休養日が設定されているが、20日の準決勝の日大三高戦で、また完投勝利すれば、決勝は連投となり、このペースだと球数は、900球を超えるだろう。 片岡さんは「最後までマークしているスカウトはもう数人だろうが、心配で仕方がないと思う。昔は一人で4試合、5試合の完投は、当たり前だったが、ここで潰れてしまっては元も子もない。松坂などの例外もいるが、甲子園の優勝投手が、なかなかプロで成功できないのは、ここで燃え尽きて、肩、肘を痛めてしまうということも原因のひとつかもしれないからね」と、12球団スカウトの心中を慮った。 金足農が前回ベスト4に進出した1984年は、桑田・清原の“KKコンビ”率いる最強のPL学園に破れて決勝進出はならなかった。「超えたいのではなく、超えます」。吉田は、そう力強く誓った。 ネット裏のスカウトからすれば、今大会で、さらに人気を勝ち取りスターになってもらいたい気持ちと、もうこれ以上投げないで欲しいという気持ちが入り乱れる複雑な心境に違いない。