TSMCジャパン3DIC研究開発センターがオープン
TSMCジャパン3DIC研究開発センターは2022年6月24日、産業技術総合研究所(産総研/茨城県つくば市)の敷地内で建設を進めてきたクリーンルームの完成に伴い、オープニングイベントを開催した。 産総研の敷地内にある、TSMCジャパン3DIC研究開発センターのクリーンルームの外観[クリックで拡大] TSMCジャパン3DIC研究開発センターは2021年3月に設立された。3次元(3D)実装を含め、後工程の重要性が高まる中、日本の材料/半導体製造装置メーカーや研究機関、大学と連携しながら最先端の3D IC実装の研究開発を行うことが目的だ*)。 *) 経済産業省は2021年5月、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業/先端半導体製造技術の開発(助成)」の採択事業者を発表。「高性能コンピューティング向け実装技術」の実施者としてTSMCジャパン3DIC研究開発センターを選び、今後5年間の研究開発費380億円のうち半分となる190億円を助成する計画だ。 TSMCが海外にR&D拠点を設けるのは、これが初めてとなる。その地が日本であることについて、TSMCジャパン3DIC研究開発センター バイス・プレジデント センター長を務める江本裕氏は、「非常に画期的だ」と強調した。 オープニングイベントには、江本氏の他、TSMCのCEO(最高経営責任者)であるC.C. Wei氏、経済産業大臣の萩生田光一氏、つくば市長の五十嵐立青氏などが登壇、祝辞を述べた。 江本氏は「TSMCが、日本の産業界とともに半導体の未来の成長を描く第一歩として、研ぎ澄まされた緊張感と高揚感の中で、今日という日を迎えた。これからサプライヤー各社、研究機関、大学などとの関係を構築し、発展させ、維持、強化していく。それがわれわれのミッションである」と語った。 C.C. Wei氏は「COVID-19の影響によって人々の生活様式は大きく変わり、デジタルトランスフォーメーションが加速するに伴い、電子機器に搭載される半導体の量は増加の一途をたどり、半導体の役割もますます重要になっている。台湾、日本はグローバル半導体業界のサプライチェーンで重要な存在だ。台湾や製造、そして製造プロセスにおいて、一方の日本は、半導体製造装置と材料でリーディングポジションを築いている」と語った。 「TSMCは半導体産業において日本の存在を重視しており、1997年の日本法人設立以来、長期にわたり関係を構築してきた。半導体が、2D(2次元) ICから3D ICに移行しつつあり、将来の技術のコアとなる中で、これから半導体産業は”黄金の10年間”を迎えるだろう。その時代を迎えるにあたり、日本と協業できることをうれしく思う」(同氏) 萩生田経済産業大臣は、「日本の半導体産業のさらなる発展に向けては、足元の国内製造基盤のみならず、次世代半導体の実現にも取り組むことが重要だ。わが国の半導体産業は、『Made in Japan』に固執し、グローバルのイノベーションの潮流に乗れなかったことが、凋落(ちょうらく)の一因だと考えている」と強調。「ことしのゴールデンウイークに米国を視察した際、半導体関連の企業が国境をこえて連携する様子を目の当たりにして、大変な刺激を受けた。過去の反省を踏まえ、次世代半導体の製造技術開発を国際連携の元で進める重要性を感じている。ここつくば市が、グローバルオープンイノベーション創出の新たな中心地となり、日本の半導体産業発展に貢献することを期待したい」と語った。 2022年内にも最初のパイロットライン立ち上げへ オープニングイベントでは、完成したばかりのクリーンルームも披露された。建物の1階がユーティリティールーム、2階がクリーンルームとなっている。クリーンルームにつながる廊下には、サプライヤー/パートナー企業のポスターがずらりと並ぶ。 クリーンルームは、廊下から窓越しに見学が可能で、設置した検査装置やダイサーが稼働している様子を見ることができた。なお、ダイサーを操作するオペレーターはヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着していて、オペレーターが見ている映像をそのまま外部モニターに転送し、見学者も見られるようになっていた。 現在、クリーンルームに装置は数台しかなく、これから本格的に導入して立ち上げていく。江本氏によれば、装置は2022年内に立ち上げ、同じく年内にも最初のパイロットラインを稼働する計画だという。 クリーンルーム上部にはAMHS(Automated Material Handling System)が設置され、縦横無尽に動き回っていた。AMHSが導入されているのは、TSMCジャパン3DIC研究開発センターでは量産仕様の技術開発を行うからだ。「当センターでは、Copy Exactly(完全な複製)で台湾など各地の工場に適用できる技術を開発する」(江本氏) TSMCジャパン3DIC研究開発センターで働く従業員の数は、約100人を想定。半数は台湾のスタッフで、あとの半数は日本で雇用していく計画だ。台湾の3D IC開発チームとのすみ分けについては、「日本では、より材料に重きを置いた研究開発になる」(江本氏)という。 さらに、日本に開発拠点を置くことのメリットについて、江本氏は「スピード」と断言。「最大のメリットは圧倒的なスピードだ。エンジニア同士がひざを突き合わせて開発を進められるというのは大きい」と語った。 なお、同センターでの開発ロードマップやタイムスケジュールについては明らかにせず、「1~2年でできるようなものではない」と述べるにとどめた。 半導体ICではさらなる微細化が進む中、チップの製造コストは増加の一途をたどっている。江本氏は「3D積層であれば、もっと自由にチップを組み立てることができる。例えば、5nmノードで製造したチップを積層すれば、より安い初期投資で優れた機能を実現できる可能性もある。その方が(プロセス開発や設備に巨額の投資をするよりも)よいアプローチなのではないか、ということに、5年後くらいにマーケットが気づいてくれたらと思っている」と語る。「3D ICの市場を拡大していくことが重要だ。3D IC技術を早期に立ち上げて市場全体を拡大し、サプライヤーもスケールメリットを得られて、業界全体がWin-Winとなる。そんなシナリオを考えている」(同氏)
EE Times Japan