4年ぶりの再演『天保十二年のシェイクスピア』 熱い思いの溢れる公開稽古&囲み会見レポート
藤田俊太郎演出、浦井健治らが出演する舞台『天保十二年のシェイクスピア』が12月9日(月) より上演される。日本を代表する劇作家・井上ひさしが、江戸の任侠の世界を舞台に、シェイクスピア全37作と講談『天保水滸伝』をミックスした、遊び心満載でパワフルな作品だ。藤田版は2020年に初演されたものの、当時猛威をふるい始めた新型コロナウイルスの影響で千秋楽目前に公演中止に。今回は一部キャストを新たに、4年ぶり待望の再演となる。11月20日、本作の稽古場公開と囲み取材が行われた。 【全ての写真】舞台『天保十二年のシェイクスピア』稽古場会見より(全30枚) この日の公開稽古では、大きく3シーン、全4場が披露された。まずは第3場「おとこ殺し腰巻地獄」。浦井健治扮するアンチヒーロー・佐渡の三世次が作品の舞台である清滝村に帰ってくる場面だ。藤田からは「時は江戸後期。価値観や時代が一気にかわっていくような時代のお話です」と解説が。冒頭早々、シーンのきっかけとして発せられた前場面のラスト、中村梅雀扮する鰤の十兵衛のセリフで「こう出りゃ(コーデリア)そう出たか、ありゃりゃりゃりゃ(リア)……」と、シェイクスピアの登場人物を巧みに盛り込んだ言葉遊びが炸裂! それだけですでにワクワクしてしまう。 清滝村では“よだれ牛の紋太一家”と“小見川の花平一家”のふたつのヤクザが一触即発状態。女郎たちが賑やかに歌い、旅人を宿に引き込もうとする中、足を引き摺ったせむし男・佐渡の三世次がやってくる……。 リチャード三世を背負った役どころの三世次は、情念的なブルース(「三世次のブルース」)で、自身の生い立ちと世の中への怨嗟を歌っていく。浦井は「平和も戦も」「きれいはきたない」と対立する二項を挙げる中「平和」「きれい」といったポジティブな言葉で皮肉めいた歪んだ笑顔を浮かべていたのが印象的。 続けて9場「浮気もの、汝の名は女」の場面。縄張り争いをしている紋太一家と花平一家、それぞれの親分が殺されたところに、紋太一家の跡取り・きじるしの王次が数年ぶりに帰ってくる、というシーンだ。「王次の登場は劇場では客席からになります。稽古場ではここ……は無理ですね。ここ……も狭いので、あちらにしましょうか。……すみません、もちろん最初から決まっていたんですよ(笑)」という藤田の寸劇(?)で報道陣を温めたあと、王次を演じる大貫勇輔が颯爽と登場! この王次役は2020年公演では浦井が演じていて、浦井王次は少し陰鬱な雰囲気も漂わせていたが、大貫王次はフレッシュで爽やか。女たちをキャーキャー言わせるのも納得の華やかなモテ男っぷりだ。軽快な音楽にのせて歌い踊る男性陣、女性陣のダンスも楽しい。しかしそんな王次に三世次の策略の手が伸びる。三世次は、王次の父親である紋太そっくりの百姓に亡霊を演じてもらい、自分は花平一家に殺されたのではない、実の弟と自分の妻・お文に殺されたのだと告白させ、復讐をけしかけるのだ。このあたりはまさに『ハムレット』なのだが、紋太似の百姓役の阿部裕と浦井のコミカルなやりとりなどに、井上ひさしらしい遊びが見てとれる。3階まで使った演出も大迫力だ。 最後に11場「賭場のボサノバ」、12場「時よとまれ、君はややこしい」とふたつの場面を続けて披露。前半は「両家とも火種はあるものの、生活はしなければいけないので、旅籠や女郎宿、賭場という日常の仕事に戻っている。その日常を描いています」と藤田。 3階建てのセットの中、1階では主の九郎治(阿部)、その妻お文(瀬奈じゅん)の姿が。そして2階では賭場が開かれている。“賭場の場”を“ボサノバ”とかけたこのシーンは何と言っても宮川彬良による音楽が印象的! 新川將人の渋い壺振りや「丁か半か」と歌う山野靖博の低音ボイスと見どころ聴きどころもたくさんだが、さらに前景では清滝村に帰ってきたお光(唯月ふうか)と王次が意味ありげな出会いを果たしている。このお光は鰤の十兵衛の三女。十兵衛は財産を姉のお文とお里に与え、お光は放逐されてしまったものの、本当に父親を愛していたのはお光。彼女は父を殺したのは姉のお文と紋太一家ではないかと疑い、復讐のために故郷に帰ってきたのだ……。 姉の賭場でいかさま賭博を見抜き啖呵を切る唯月の威勢のよさ、その圧にも動じない瀬奈のドスのきいたセリフ回し、姉妹の火花散るやりとりが面白い。と、そこでストーリーテラー“隊長”役の木場勝己が“語り手の特権”と時を止めてしまう。お光の出生の秘密を明かし、その双子のおさちを紹介すると、二役を演じる唯月がお光からおさちに早替わり。鉄火なお光とは違う、たおやかな風情で「私の胸」を歌い上げたところで、公開稽古は終了となった。