マリア・シュナイダーが語る至高の作曲術、AIが代替できないジャズの民主主義
AIが代替できないジャズの民主主義
―『Data Lords』のリリースから5年が経ち、AIへの懸念はよりリアリティのあるものになりました。多くの楽曲を学習させたAIに作らせた曲も出てきています。そんな環境下に、あなたは人間の作曲家として、どんな音楽を生み出していきたいと考えていますか? マリア:うーん、ジャズにとって大切な即興演奏に関してなら言えることがひとつある。座ってソロを取ることが即興演奏ではないってこと。他人のやることを聴き、いい意味で影響を受けながら共にプレイし、コネクトすること。他の人がやったことが、自分の考えやアプローチを変えることもある。だから計画を一旦手放し、無計画な中から何かを起こさせる。要するに民主主義。それは(他人の音を)聴くこと。今日の政治家たちは「自分が正しい、お前は最低だ、アホだ、ヒトラーだ、ナチだ」とやり合ってるだけで、誰も相手の話を聞かないでしょ? ―おっしゃるとおりですね。 マリア:私は最近「American Crow」という曲を書いた。ミュージシャンはバンドの演奏を待って、それに応えた演奏をしなければいけない。最後には誰もが互いに話し合っている。“その時の自分たちのいる場所”ということ。リスクを恐れず、互いの演奏を聴くことこそ、ジャズのユニークさでしょ? そして、人間がやることはまさにそれだと思う。その時々に人間がやるべきこと。AIがそれを人間と同じレベルでやれるとは思えない。だってそこにはユーモアがあり、予期しないものがある。誰かがつまづき、間違った音を出したら、そのミスを支えるように他の誰かも違う音を出すことで、それが正しくなる……というようにね。つまりは他人に自分を投影し、想像をする。これってものすごく人間的な資質。私のバンドにいるスコット・ロビンソン(Sax)は唯一無二のミュージシャン。そのスコット・ロビンソンを作れるなら作ってみなさいよ、AI!って私は言いたい。 ―ははは(笑)。 マリア:東京でのライヴ中、彼が小切手でソロを取った話、聞いたことある? 彼がどの楽器でソロを取るのかはリーダーの私にもわからない。だから、私は目を閉じて、彼を待ってた。でも、何も聞こえない。ちょうどその寸前、私は彼にギャラを払ったばかりだった。そしたら突然、スコットが胸ポケットから小切手を出して、それを口に当ててソロを取っていたの!(笑) ―すごい(笑)。 マリア:AIにそれは絶対できないはず! AIはすでに知っていることのなかから、平均の中の平均の平均の、退屈極まりない訳のわからない塊を出してくる。でも、人間はユニークだから。なのに、どんどんユニークでないものになりつつある。誰もが自分の携帯だけをのぞいて、そこで読んだことに影響されている。そこで読めることは、昨日たくさんの人が「いいね!」したこと。人間もどんどん自分の頭で考えずに、与えられたものを受け取るだけの退屈な塊になりつつある。でも、アートは表現することがすべて。音楽、特にジャズは、その瞬間、そのコネクション、そして聴くこと、良い意味で影響されること、それがすべてだから。 --- NEO-SYMPHONIC JAZZ at 芸劇 マリア・シュナイダー plays マリア・シュナイダー 2024年7月27日 (土) 東京芸術劇場 コンサートホール 開場/開演:16:00/17:00 ■曲目 作曲:マリア・シュナイダー Carlos Drummond de Andrade Stories *日本初演 Hang Gliding(挾間美帆 編曲) Dance You Monster to My Soft Song Sky Blue ほか ■出演 マリア・シュナイダー(指揮・作曲)/森谷真理(ソプラノ) 特別編成チェンバー・オーケストラ:斎藤和志、石田彩子(フルート)/最上峰行、大植圭太郎(オーボエ)/中ヒデヒト(クラリネット)/石川 晃、竹下未来菜(ファゴット)/谷 あかね、豊田実加(ホルン)/東野匡訓、奥村 晶(トランペット)/佐藤浩一(ピアノ)/マレー飛鳥、矢野晴子、石井智大、梶谷裕子、岩井真美、黒木 薫、吉田 篤、沖増菜摘、地行美穂、西原史織、銘苅麻野、杉山由紀(ヴァイオリン)/吉田篤貴、志賀恵子、角谷奈緒子、藤原歌花(ヴィオラ)/多井智紀、島津由美、ロビン・デュプイ、稲本有彩(チェロ)/吉野弘志、一本茂樹(コントラバス) 池本茂貴isles(ラージ・アンサンブル):土井徳浩、デイビッド・ネグレテ、西口明宏、陸 悠、宮木謙介(サックス)/ジョー・モッター、広瀬未来、鈴木雄太郎、佐瀬悠輔(トランペット)/池本茂貴、高井天音、和田充弘、笹栗良太(トロンボーン)/海堀弘太(ピアノ)/小川晋平(ベース)/苗代尚寛(ギター)/小田桐和寛(ドラムス)/岡本健太(パーカッション) ※挾間美帆は出演いたしません
Mitsutaka Nagira