なぜZIPAIRはホノルルへ? エコノミー並みビジネスクラス運賃で商機狙う
「最後発の航空会社で、コロナ渦での国際線就航なので多くの方が集まる期待はしていなかったので、十分ありがたい。ホノルルは観光都市でもあるので、この規模でずっと維持するのは難しいと思っている。往き来が始まるまで、耐えながらやっていかざるを得ない」。日本航空(JAL/JL、9201)の100%子会社で、中長距離国際線LCCのZIPAIR(ジップエア、TZP/ZG)の西田真吾社長は、12月19日に成田空港で開かれたホノルル線の就航式典でこう述べた。 【ZIPAIRのビジネスクラスはフルフラット】 ホノルル行き初便のZG2便(ボーイング787-8型機、登録記号JA825J)は乗客26人(幼児なし)と乗員11人(パイロット3人、客室乗務員8人)、貨物14トンを乗せ、午後8時9分に成田を出発。米国西海岸就航を当面の目標とするZIPAIRにとって、太平洋を渡る第一歩になった。 一方で、すでに就航しているバンコク線やソウル線とは違い、貨物だけで運航コストをある程度賄うことが難しいのがホノルル線だ。困難が予想される中、なぜZIPAIRはホノルルに飛び続けるのか。 ◆貨物需要が異なるホノルル線 アジアなどからの訪日客を取り込むことを主眼にスタートしたZIPAIRにとって、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は、就航前からビジネスモデルの転換を迫られた。1路線目の成田-バンコク(スワンナプーム)線は5月14日に就航予定だったが、乗客を乗せない貨物専用便として6月3日から運航を始めることになった。10月28日からは、バンコク発成田行きのみ旅客扱いを始めており、1月9日からは成田発も搭乗できるようになる。2路線目の成田-ソウル(仁川)線も9月12日に貨物専用便で就航し、旅客扱いは、10月16日から始めている。 西田社長によると、先行する2路線は貨物需要が好調なため、現在の燃油価格であれば燃料費はまかなえるという。「旅客は(赴任など)動ける方だけが動いている状況。貨物の動きはかなりあるので、貨物需要を満たすために定期便を運航している」(西田社長)と、すべての運航コストはまかなえないまでも、コストの半分を占めると言われる燃料代を捻出できている状況だ。 バンコク線の旅客便は現在バンコク発が週7便(1日1便)、ソウル線の旅客便は週3往復。当初から旅客扱いがあるホノルル線は不定期運航で、就航初日から1月末までの期間中に13往復運航する。 ホノルル線は「日本からの貨物はあるが、ホノルル発が少ない」(同)といい、バンコクやソウルとは事情が異なるという。貨物を運ぶよりは、西海岸就航に向けて米国方面への長距離フライトの経験積んでいく意味合いが強いようだ。 エンジンが双発の787の場合、洋上を長時間飛行する際に必要な航空当局の承認「ETOPS(イートップス)」が必要で、ホノルル初便は同社初のETOPS運航になった。ETOPSは、エンジンが1基停止しても洋上飛行が一定時間可能になる承認で、エンジン単発でも最大180分(3時間)飛行できる。 2月以降のホノルル線は、旅客や貨物の需要を見て、不定期で運航を継続。当面は先行2路線のように、運航する曜日を決めるまでには至らないようだ。 ◆5万9800円でビジネスクラス しかし、単にパイロットの練度を上げるためだけに、ホノルル線を不定期で運航しているわけではない。西田社長は「海外旅行が戻るのは、ハワイからではないか」と、日本人に人気の高いハワイこそ、国際線の観光需要で早期回復が見込めるという。 すでにハワイ州は出発前に新型コロナの陰性証明を提示した場合、ハワイ到着後の14日間自己隔離を免除する事前検査プログラムを導入済みで、日本発の渡航者も対象に含まれている。今後は日本へ帰国する際、出発前に現地のPCR検査で陰性が証明された際、帰国後の14日間隔離を免除するなどの進展がみられれば、国内の感染終息とともにハワイへの旅行需要が早期に回復する可能性がある。 西田社長は「ビジネスクラスの売上がエコノミーを上回ることがある」といい、同社のビジネスクラスは、JALなどフルサービス航空会社(FSC)の運賃と比べて競争力ある。 ZIPAIRの787-8は、座席数が2クラス290席。フルフラットシートを採用したビジネスクラス「ZIP Full-Flat(ジップ・フルフラット)」が18席、エコノミークラス「Standard(スタンダード)」が272席で、成田発ホノルル行きの運賃はビジネスが5万9800円から、エコノミーが1万9800円からだ。 単純な比較として、最安値でビジネスが満席になると107万6400円の売上で、エコノミーの最安値だけでビジネスを上回るには55人(108万9000円)乗らなければならない。今後新型コロナが収束したとしても、すぐに多くの人がハワイへ出かけるとは考えにくく、FSCのエコノミー並みの運賃でビジネスに乗れるメリットを訴求して、少人数でも客単価を高めていくのが現実的な対処方法と言えそうだ。 もう一つ、ZIPAIRが飛び続けることを重視しているのが他社との協業だ。ホノルル線ではコーヒーショップ「AMAZING COFFEE」のコーヒーやオリジナルのエコバッグを販売している。西田社長は「エコバッグを買いたいという問い合わせを頂いている。(バンコク線が)飛び始めてからは、いろいろな企業からお話をいただくようになり、飛ぶ前とは状況が変わった」と話す。航空券の販売でも、大手旅行会社からハワイ旅行の商品を作る際、航空券はZIPAIRにしたいという相談があるという。 「自由に移動できる世の中がいつか来る。当社はReady(準備ができた)の状態を作っておくことをお約束する」(西田社長)。苦境であっても飛び続けることで、ZIPAIRは新たな道を開こうとしている。
Tadayuki YOSHIKAWA