2億8千万円含み益も…水商売で借金返す40代シングルマザーの悲劇 知らないと怖い「暗号資産」の“税金”
もう一つ忘れてはならないのが、株式分割ならぬ暗号資産“分裂”時の申告だ。 17年以降、ビットコインからビットコインキャッシュ(BCH)、ビットコインゴールド(BCD)といった新たな暗号資産がハードフォーク(分裂)により誕生し、ビットコイン保有者に付与されてきた。これらの取得価格は無料。しかし売却時には売却代金のすべてが申告の対象となる。 ■ハードフォーク分の申告漏れ 「私が指摘されたのは、そのハードフォーク分の申告漏れでした。税務調査の結果、海外の取引所で売却した20種類の暗号資産、1億5000万円の申告漏れが発覚。加算税、延滞税合わせて7000万円以上の追徴課税を食らってしまいました」 こう話すのは22年にシンガポールに移住した40代の男性。17年頃から暗号資産のトレードで生計を立ててきたという。 「暗号資産の業界は成熟しきっていないので、取引所によってビットコインの価格がまちまち。だから、価格が安い取引所でビットコインを購入して高値がついている取引所に送金して売却するというサヤ取引が簡単にできる。私は年間約10億円分の取り引きを行い、多い年には1億円近くの利益を得てきました。当然、その利益については申告していたのですが、21年に税務調査が入り、調査官から『こんなに多額の取り引きをしているのに、ハードフォーク分の売却益は0円なんですか?』と突っ込まれたんです」 このとき調査の対象となったのは17~20年の4年分の取り引き。当時は、日本在住の投資家でも簡単に海外の暗号資産取引所に口座を開設することができたため、この男性は暗号資産の大半を海外に預け入れ、日本の取引所は主に現金化のために活用していたという。 つまり、ハードフォークで付与された新たな暗号資産はすべて海外の取引所に預け入れていた。
「海外で付与されたものなら申告しなくても大丈夫だろうと安易に考えてしまったのが運の尽き。意図的に所得を過少に見積もったと認定されたら、重加算税が課されて追徴課税が1億円を超える可能性もあったので、自主的にすべての海外取引所の取引履歴を提出して、何とか7000万円程度におさめてもらいました。そのうち5000万円をすぐに納付し、残りは毎月50万円ずつ納税を続けています」 このように、申告漏れを指摘されて多額の追徴課税を課される投資家が増えている。「魔界の税理士」(魔界=暗号資産投資の奥深い分野を指す)の名で暗号資産の税務に携わる村上裕一氏が話す。 「公表されている22年分までの3年間で暗号資産関連の税務調査件数は約1.4倍に増えており、申告漏れの所得金額は20年分の106億円から189億円に増加。トータルの追徴税額はほぼ倍増して64億円に達しております。3~4年分遡って税務調査が行われるケースが多いので、21年のビットコインバブルで稼いだ人は、これから調査の対象になる可能性がある。足元でビットコイン価格が急騰していることを考えても、今後、暗号資産の投資家を対象にした調査件数や申告漏れ所得金額は増え続けると考えたほうがいいでしょう」 ■追徴課税で破産同然 20年には暗号資産取り引きで約2億円の利益を得ながら「120万円」と虚偽申告した男性が脱税で逮捕されている。追徴課税で破産同然の状況に追い込まれる投資家も少なくないという。 「SNS上に流れた『暗号資産同士の交換取り引きなら売却益を申告しなくていい』という誤情報を鵜呑みにして、人生を狂わされた人もいます。『エイダコイン(ADA)』という暗号資産に投資した40代のシングルマザーは一時、含み益が2億8000万円まで膨らみましたが、換金すると多額の税金を請求されると考えて別の暗号資産に乗り換えた。ところが、ある日税務調査が入って3000万円の追徴課税を課されてしまった。そのときには暗号資産バブルが終焉しており、乗り換えた暗号資産を売り払っても3000万円には届かず、新聞配達や水商売もやりながら、借金の返済を続けたと聞きました」(前出の村上氏)