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「ダメな行為とは分かってるんだけど」暴走初老の虚しい言い訳

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幻冬舎ゴールドオンライン

※本連載は、脳科学・心の問題の専門家である高田明和氏の著書『定年を病にしない』(ウェッジ)より一部を抜粋し、定年をきっかけとする深刻な問題を抱えた人々の事例をもとに、第二の人生を明るく歩むための「定年後の自分を育てる」ヒントを紹介します。

止まらない暴言…理不尽にキレまくる自分自身に愕然

【事例1】 製薬会社で営業本部長として忙しく働いてきた敦史(61歳)は、4年前に突然妻を亡くしたのを機に早期退職し、寂しいながらも悠々自適の生活を送っていた。 だが、最近になってイライラすることが増えていた。コンビニやスーパーのレジで店員がもたついたり、病院での対応が悪かったりすれば、自分でも驚くほどの暴言を吐くことさえあった。このイライラはエスカレートし、店員の対応が完璧でも、その手際のよさに温かさがなければイラつくほどだった。そのうちコールセンターにも電話をかけるようになり、「おまえでは話にならん。責任者を呼べ!」などと暴言を吐くようになった。 ただ、暴言を吐く相手は女性か気の弱そうな男性ばかりで、敦史もそのことに気づいて恥ずかしく思い反省することもあったが、改善することはなかった。

孤独ゆえ満たされない承認欲求が「暴言」として発露

敦史さんは忙しく働いていたので、定年後は奥さんとの生活を楽しみにしていたのかもしれません。早期退職をしたのも奥さんを喪ったショックが、あまりにも大きかったからでしょう。喪失感や寂しさからくる孤独が暴言の引き金となったのでしょう。暴言はいけませんが、私も7年前に妻を亡くしましたから、敦史さんの気持ちはわかります。 私と妻は特殊な夫婦だったといえます。妻とは大学入学時に知り合って付き合うことになり、大学院やアメリカ留学でも一緒でした。帰国後は浜松医科大学で、ともに研究生活を送っていたので、ここまで時間を共にした夫婦はめずらしいといえるでしょう。まさか突然妻が亡くなるとは思っていませんでしたから、実感がなかったくらいです。 妻とはよく旅行したのですが、妻がいなくなってからは、旅行したいと思わなくなりました。旅先で美しい景色などを見ても、妻とそのことについて、いろいろと話せるから楽しかったのです。それができない今となっては、旅行する意味がありません。ほかの人と旅行の楽しさを共有したいとも思いません。旅行は、私の横に妻がいたからこそ、楽しかったのです。 老後の三大不安として「健康」「お金」「孤独」が挙げられますが、最も深刻なのが「孤独」です。私も高齢者なので例外ではありません。ただ、妻を亡くして孤独に感じることはありますが、幸い働くことで孤独を遠ざけることに成功しています。仕事で出会う人たちとの時間が楽しいのです。 近年では、雑誌やテレビ、ネット記事で「キレやすい老人」「暴走老人」「高齢クレーマー」などのタイトルをよく見かけるほど、高齢者の問題行動が取り上げられていますが、これは孤独が引き金になっているのでしょう。最近では、「暴言・暴力を許しません」と張り紙をした病院や老人介護施設も増えているといわれているくらいです。 敦史さんのように出世した人ほど、定年後は働いていたときのように権威が通用しないギャップが大きい。そのため承認欲求が満たされず、問題行動につながりやすいのです。奥さんを亡くして孤独な生活を送っていれば、暴走が止まらないでしょう。 人間は加齢とともに感情をコントロールしにくくなってきます。これは年を取ると脳のなかで最初に感情をコントロールする前頭葉の機能が低下し、理性で抑えられなくなってくるからですが、前頭葉だけの問題ではありません。承認欲求が満たされないのも、大きく影響しているでしょう。前頭葉を鍛えるのなら、瞑想をしたり、運動をしたりするなど、有効な方法があるのですが、承認欲求を満たすのは、そう簡単にはいきません。 なにかとマイナス面が取り上げられることが多い高齢者ですが、統計を見ても深刻さが窺えます。たとえば、「コールセンター白書2014」(リックテレコム)によると、コールセンターのクレームは60代以上が35.8%で断トツです。 暴力行為も問題になっています。JRや民営の鉄道各社が発表した、平成30年度(2018年4月~2019年3月)に発生した、駅係員や乗務員等の鉄道係員に対する暴力行為は630件でしたが、60代以上が24.6%を占め、どの年代よりも多かったのです。この統計からも、キレる高齢者は決して少なくないといっていいでしょう。 敦史さんは弱い立場の人や反撃ができない人に対しての暴言を反省していますので、まだ救われるところがあります。

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