「やってしまう可能性は昔からあった」元日本代表MF乾貴士、引退も考えた激動の1年
「ダウンタウンさんは衝撃でした」
サッカーの楽しさを再認識した乾にとって、4年前のW杯ロシア大会はサッカーの楽しさを心底感じた舞台だった。その記憶は脳裏に刻み込まれている。 「ただただ楽しんで、本当に楽しんでただけだったです」 当時、乾のロシア行きは難しいと言われていたが、大会直前に西野朗氏に監督が交代してメンバーに選出。本大会でスタメンに起用されると2ゴールを挙げる活躍でチームの16強入りに貢献した。特に日本サッカー史に刻まれるほどのインパクトを残したのが、ベルギー戦でのゴールだ。後半3分に日本が先制すると、その4分後には乾が無回転ミドルシュートを決めて2-0でリード。日本初のベスト8入りがよぎった瞬間だった。 「もちろんあのシーンを忘れたことはありません。でも、シュートしたときのことは、大して覚えてないんですよ。これで『勝てる』と思ったのは確かです。もう1点ぐらい取れるんちゃうかなと。結局はやられちゃいましたけどね……」 2点リードの状況から逆転負けを喫するという衝撃的な結末。試合終了のホイッスルのあと、乾は人目もはばからず涙を流していた。 「悔しかったです。ベスト8まで行けたのに。なんで、なんで?っていう感じでした。ベルギーの1点目が入ったときに、ほんまにスタジアムの雰囲気がコロッと変わったんですよ。自分のゴールよりもそれはすごく覚えています。あ、やばいと思ってたら、結局同点に追いつかれて……。でもやりきったし、すごい楽しかった」
敗戦したとはいえ、名勝負を演じた日本代表の選手たちは帰国後、メディアに引っ張りだこだった。乾も一躍、時の人となり、街なかで見ず知らずの人からたくさん声をかけられ、多くのテレビ番組にも出演した。 「このタイミングを逃したら、テレビに出るチャンスがないと思ってたので(笑)。出たい番組のオファーがあったらすぐに返事しました。特にダウンタウンさんには会いたくて、『本音でハシゴ酒』は絶対に出たいと思っていたのですが、実際にお会いすると、めちゃくちゃ面白くて衝撃でした(笑)。あとはサッカーなんか知らなそうなおばちゃんが、『あれ、ワールドカップの人ちゃうん?』って言うから、びっくりしました。それまでは一度も声をかけられたりしたことがなかったので。もうどこ行ってもバレてました」 サッカーをする誰もが憧れるW杯は、戦った者でなければ、そのすごさはわからない。乾は少し考えて、こんな話をしてくれた。 「国同士の大会なので、みんなが背負ってきたものすべてを懸けているんですよね。選手それぞれにここにたどり着くまでの物語があって、そんな思いを秘めた選手が集まるからこそ、他の大会とは違うんです。言葉にするのが難しいですけれど、それは気持ちの部分だと思います。本当に死に物狂いというか、親善試合では絶対に味わえないし、必死さが全然違います。それはすごい思いました」 4年前に日本中を熱狂させた男は「あの最高の舞台で同じ緊張感を経験することはもうないと思います。(W杯は)もういいです」と笑った。